負債額は2,500億円。アーバンコーポの破綻と不動産セクターの今後

市場に衝撃を与えた今年最大規模の倒産

東証1部上場の不動産開発会社アーバンコーポレーション(8868)は8月13日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、同日受理されたと発表しました。負債総額は2,558億円超で、帝国データバンクによると、今年最大の倒産とのことです。

このニュースは不動産業界のみならず、株式市場全体に衝撃を与えました。

同社は03年3月期決算で、連結売上高が前年同期比35%増の2,437億円、経常利益が同9.4%増の617億円でした。それほどの売上規模と利益を確保していた企業が、資金繰りに窮し、破綻してしまったのです。

広島に本社を置き、90年に不動産仲介会社として創業した同社は、「アーバンビュー」シリーズで分譲マンションに進出しました。00年以降は低採算のオフィスや店舗を取得し、リノベーションと呼ばれる改修・改装を施して投資ファンドに転売する「不動産流動化事業」で急激な発展を遂げました。

しかし、投資ファンドに対する資金の出し手であった外資系金融機関が、サブプライムローン問題により急速に財務体質を悪化させ、投資ファンドに資金が回らなくなりました。その結果、アーバンコーポは、同社の成長を支えてきた不動産流動化事業において、「急に買い手を失った」状態に陥ったのです。

さらに昨秋ごろからマンションの販売が低迷するなど、市況が冷え込んだことも影響しました。

東京商工リサーチによりと、08年4−7月の不動産業界の倒産件数は、前年同期比40%増の208社に達しています。ゼファーの破綻など記憶に新しいところでしょう。

今回のアーバンの倒産は、そうした厳しい“不動産業界の冬の時代”を象徴する出来事といえます。【ポイント1】

投資家を“だました”アーバンの資金調達

先にも述べたように、アーバンの倒産の影響は不動産業界以外にも波及しています。特に今回は、同社の資金調達の方法をめぐり、投資家の不信が高まっています。

「監査法人が納得できる資金繰りの計画を立てられず、(四半期決算への)意見が不表明となることが確実になった」

アーバンの房園博行社長は、破綻の背景をそう語りました。同社は当初、四半期報告書の提出期限である14日に08年4−6月期決算の発表を予定していました。しかし、同社の監査法人であるあずさ監査法人が意見不表明とした結果、同社の“進退”が問われ、13日に民事再生法の適用申請となったわけです。

アーバンはそれに先立つ6月26日、資本増強を目的に、BNPパリバを割当先とする転換社債型新株予約権付社債(CB)300億円の発行を発表していました。通常なら、300億円の資金調達が可能となり、財務体質の強化につながるはずのものです。

ところが、実際の契約内容はというと、アーバンは調達した300億円をいったんパリバに全額支払い、パリバはCBから転換したアーバン株を市場で売却、売却資金を株価水準に応じてアーバンに支払う、というものでした。

この仕組みは、株価が一定水準以上であればアーバンは計画の300億円を調達できますが、それは保証されておらず、「調達額は株価次第」という不安定なものです。実際、同社の株価は、不動産業界の低迷や自身の信用不安もあり、大幅に下落し、実際に調達できたのは想定の3割の90億円にとどまりました。

ですので、6月時点で想定されていた財務体質の強化は実現されておらず、しかもそのことが開示されたのが民事再生法を申請した当日だったのです。これでは多くの投資家が「だまされた」と思い、不信感を膨らませるのも仕方がありません。【ポイント2】

不動産は本当に“冬の時代”?

東証1部上場企業の破綻、しかも資金調達をめぐる不信。こうした状況をみると、不動産業界への投資に二の足を踏む方も多いでしょう。
しかし、「不動産」とくくってしまうと事実を見誤る可能性があります。

確かに、足元の業況は芳しくありません。一時期に比べると確実に悪化しているでしょう。マンション市況の悪化も深刻です。しかし、オフィス関連では、アーバンのようなファンドへ売却する回転型ビジネスではなく、オフィスビルを建設し賃貸料で稼ぐという、足腰のしっかりしたビジネスモデルも成立しており、そこで利益を上げている企業もあるのです。

実際、体力のある三菱地所(8802)や三井不動産(8801)などの財閥系や、オリックス(8591)などは、魅力ある物件を虎視眈々と狙い、事業拡大を図っています。【ポイント3】

また、「再開発」も注目すべきキーワードでしょう。たとえば三菱地所は丸の内の再開発を進めていますし、東京のみならず大阪、名古屋など地方中核都市でも同様の動きが見られます。

さらに、今後は日本郵政も開発主体として注目すべきでしょう。日本郵政が持つ各地の中央郵便局は低層建造物が多く、これから建て替えを行い、ショッピングセンターなどを内包する一大開発を行っていく予定です。

サブプライムローン問題は、金融と並び不動産業界にも深刻な影響をもたらしました。しかし、それも時間が解決していくことでしょう。

ですので、アーバンの破綻などを目の当たりにして、「不動産業界は終わった」と決め付けてしまうのは賢明ではありません。今は一時的な調整局面を迎えただけ。“次”を虎視眈々と狙っている企業の動きをつぶさに観察しつつ、私たち投資家も、次のタイミングを待ちたいところです。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
アーバンの普通社債の格付けは、6月には投資不適格の「ダブルB格」にまで引き下げられ、その結果、借り換えに必要な100億円の調達ができませんでした。経営幹部は取引のある80社超の金融機関に増資や融資を依頼しましたが、それもうまくいきませんでした。メーンバンクである広島銀行(8379)でさえ、3月末の融資残高は160億円と全体の5%にも満たず、結果としてアーバンは借り入れの大きさに押しつぶされる形となったのです。
【ポイント2】
かつて、ライブドアがニッポン放送株の取得を検討したとき、リーマンブラザーズが資金調達のスキームを考えたことがありました。 金融機関からの借入にしろ、市場から調達するにしろ、いずれにしてもレバレッジ(てこの原理)を働かせると、それがうまくいかなかった場合、取り返しがつかなくなることがあります。アーバンの資金調達も同様です。
【ポイント3】
オリックスは6月に、3,000億円の自己資金を投じ東京、大阪、名古屋で積極的に不動産に投資すると宣言しています。三菱地所は機会があれば海外での不良債権ビジネスに参入することを検討しているようです。これから優良物件が市場に割安で放出されるようになると、またマネーの流れに勢いが増してくることでしょう。 今はまだそのタイミングではないかもしれませんが、これから絶好のタイミングが来るかもしれないという視点を持って不動産業界を眺めると、ずいぶん違う見え方になるのではないでしょうか。

かつて、「今なぜ不動産業界に?」というタイミングで投資をした外資系金融機関。結果として、その後の不動産市況の回復もあり大きなリターンを享受しました。今の不動産不況は、将来振り返ったときに「あのときが絶好の投資チャンスだった」となる可能性があります。そう考えると、今は、チャンスを見計らう大事なタイミングに差し掛かっているのだと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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