『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ついに「瓦落」到来!米独のヘッジファンドの争いを読む

ヘッジファンドをめぐる米独戦争

日本の大手メディアでは一切報じられていないことだが、マーケットの最深部で活躍する親友たちが、昨年夏頃から口にするようになったことがある。それは、今、日本のみならず、世界中のマーケットで米国とドイツが「戦争」とも言えるくらいの激しい争奪戦を繰り広げているということだ。「まさか」と思われるかもしれないが、マネーが織り成す「世界の潮目」を追って、世界中の公開メディアをくまなくウォッチしていると、その激しいバトルが徐々にあぶりだされてきたことに気付く。


この「米独戦争」の戦場となっているのは、北朝鮮、イラン、ロシアといった諸国なのであるが、さらにここで日本の個人投資家として無視できないテーマとして、ヘッジファンド規制がある。現在、2月末で転調したものの、これまで世界的な株高現象が生じてきた。その原因は「低金利国でカネを借り、高金利国で運用する」という、まさに越境する投資主体ならではの投資行動(キャリートレード)をとるヘッジファンドの活躍に求められる。ところが、そのヘッジファンドを、ドイツが6月に自国で開催されるG8サミットにおいて締め上げようとしているのだ。


ヘッジファンド規制を強化しようとするドイツの言い分は、何よりもまず、ヘッジファンドの行動によって、金融マーケットが不安定化したというところにある。しかも、ヘッジファンドの運用体制について透明性がない場合が多いことも問題視されている。しかし、それよりもヘッジファンドによるキャリートレードが、ユーロ安に拍車をかけた結果、株価は上がるものの、欧州の製造業が大打撃を受けていることが問題視されたようだ。


英米は共に昨年末頃の段階で、一端はドイツのこうした「言い分」を認めたかのように思えた。しかし、ここに来て米国は反撃に出ており、「ヘッジファンド規制は十分ではないか」とあからさまに反論し始めた。米国によるロビイングを受けてであろう、EUの「内閣」ともいえる欧州委員会の中でもドイツへの反論が出始め(2月20日付ダス・インベストメント・ドット・コム(ドイツ))、ついには混乱を嫌った金融機関たちが一斉にドイツの隣国・ルクセンブルクへ集団逃亡を図り始めている(同22日付フィナンシャル・タイムズ(ドイツ版))。ドイツは大ピンチである。

スティールメイト化する世界

チェス用語に「スティールメイト」という単語がある。これは、他のコマを動かすことができず、またキングを動かしてしまっては負けてしまうため、「引き分け」となることを指す。金融ビッグバン以降、世界に開かれた日本のマーケットでうごめく越境する投資主体たちをつかむには、彼らの思考法を身につけるのが一番良いのだが、時に私たち日本人にとってなじみの深い「将棋」から、「チェス」へと頭を切り替えると見えてくるものもある。


現在の「米独戦争」もまさにその1つだ。メールマガジン『元外交官・原田武夫の「世界の潮目」を知る』でも繰り返しお伝えしてきたのだが、北朝鮮を巡る米国の勢いが昨年末から急にしぼみ始め、ついにはベルリンでの米朝協議に応じた背景には、北朝鮮の鉱山採掘利権を巡る欧米間の激しい取り合いが透かして見える。


そこで一敗地にまみれた米国は、今度はユーロ安に悩むドイツを追い詰めようと、ヘッジファンドに加勢しようとする。その結果、マーケットを舞台に政治・外交・軍事を巻き込んだ、壮大なスケールのスティールメイト状態が続いているのが世界の現状なのである。


内政面で野党・民主党に追い詰められてきたブッシュ政権にとっての生命線は、「株高」に象徴される「米国国内景気」である。それを演出してくれているのが、円安を利用して日本から資金調達をしてきてくれているヘッジファンドなのであるから、ブッシュ政権として彼らの肩を持たないはずがないだろう。

最後にいつ、誰が勝つのか

先般、チェイニー米副大統領が訪日した( 弊研究所の公式ブログ参照)。21日に安倍晋三首相と会談まで行った同副大統領である、その後、日本においてすら「いったい何しに来たのか?」といぶかしがられている。本来、副大統領まで動員するということは、米国政府として何らかの重大なメッセージを伝達してくるはずだったのである。しかし、それが伝達できず、単にブラブラと物見遊山に来た様子であるところを見ると、米国自身もこれからの展開が読めなくなっている可能性がある。


もっとも、こうしたスティールメイト状態は永遠に続くものでもない。なぜなら、チェスでいえば、双方のプレーヤーが「引き分け」であることをやめ、次のゲームに移ることで一致してしまえば、局面はたちまち崩れるであろう。しかも、これまでスティールメイト状態が半永久的に続くであろうと予測して追加投資を重ねてきた市場参加者たちが多いだけに、その崩れ方は半端なものではないはずだ。正に「瓦落(がら)」である。


問題は、いつそれが生じ、またそこで誰が勝つのか、であろう。6月にドイツ・ハイリゲンダムで行われるG8サミットがその一つの山場になることは言うまでも無いが、5月1日に三角合併解禁を控えている日本の個人投資家としては、2月末から生じた「瓦落」が今後、どの程度の規模に拡大していくのかが運命の分かれ道となる。世界中から聞こえるどんな些細な予兆でも、逃せない神経戦がしばらく続くことになりそうだ。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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