投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
戦後63年の“お約束”を破り、米国を怒らせた日本
トラの尾を踏まないのが「お約束」の戦後日本
戦後63年の間、日本を引っ張ってきたエスタブリッシュメントたちが、絶対に破らなかったルールが1つある。それは、米国というトラの尾を踏まないことだ。いや、正確にいえば「踏まない」どころか、トラの尾を撫で、トリミングしてきたのが日本のエリートたちの定石だったというべきだろう。
マーケットにおける動きも、その例外ではない。オイシイ獲物があるからといって、日本勢が米国勢を押しのけて前に出て行くということはない。仮に出て行ったとしても、トラ(=米国)は必ず窮鼠(=追い詰められたネズミ=日本)を後ろから叩きのめしにやってくる。
そうであればいっそのこと、まずは米国勢にやりたいようにやらせ、その後にくっついていくことで、おこぼれをもらう方が賢い。第2次世界大戦ですっかり打ちのめされた日本の各界指導者たちがそう考えても、決して不思議なことではなかっただろう。
その結果、米国というトラの尾を踏まないことが、日本社会では「お約束」となってしまったのである。1945年当時は、何らかの深慮遠謀、戦略の上での判断だったのかもしれない。だが、それから63年が経過し、こうした「お約束」は全く無意識のものとなり、いわば社会における“暗黙の常識”となってしまった感がある。
中東における原子力ビジネスに踏み込んでしまった日本
ところがそんな日本の、「オトナのお約束」からすると、驚天動地の報道が湾岸地域から最近、飛び込んできた。日本がバーレーンに対して原子力協力を申し出たというのである(2008年5月3日付「ガルフ・デイリー・ニュース(バーレーン)」参照)。
この報道がなぜすごいのかというと、米国こそが、バーレーンをはじめとする湾岸諸国、そしてサウジアラビアといった中東諸国で、原子力ビジネスを展開すべく、密かに工作を重ねてきた国だからである。米国は2005年秋頃より、原油枯渇を恐れるこれらの諸国を相手に、原子力ビジネス(具体的にはウラン濃縮)を提案し、それを実現するために奔走してきた。
いうまでもなく濃縮ウランは、原子力の時代が到来すれば核燃料として今の原油に匹敵する地位を占めるものであるが、その製造を実現するためには、周辺地域の地政学リスクが大幅に低減している必要がある。そこで米国は、いきなり力をいれて“中東和平”と喧伝し、その実現のために自ら奔走し始めたのである。
そのようにして、綿密な計画の下、しかもブッシュ大統領までもが中東に何度も足を運ぶなど「体を張っての工作」で、この地域での原子力ビジネスの展開を狙ってきた米国。ところがそこに日本がいきなり飛び込んできたのである。しかも日本は、バーレーンだけではなく、カタールとの間でも原子力協力を行う意欲を見せているといい、ワシントンは大いに懸念を抱き始めたようだ。
彼らにしてみれば、せっかく丹精こめて作り上げてきたビジネス・モデルが実現する直前に、普段はおとなしい日本にかっさらわれるようなものなのである。まさに「トラの尾を踏む」日本、これから一体どんな目にあうのか、全くわからないのである。
米国というトラは一体どのように怒り狂うのか?
ゴア氏の『不都合な真実』以降、地球温暖化問題が叫ばれ、対応策として代替エネルギーの筆頭格である原子力がふたたびブームになりつつある今の国際マーケット。その陰には米国による緻密な計算と工作があることについて、私は5月23・24・25日に神戸・京都・静岡、6月7・8日に横浜・東京でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)でじっくりお話できればと考えている。
ちなみにこれほど大きな話だというのに、日本の大手メディアは全くキャリーしていない。完全に黙殺してしまっている。物事の重要性がわからないか、あるいはわかっていても日本人に広く知られては困るニュースなのだろう。
気になるのは「米国というトラ」がこれからどのように怒り狂うのかである。上記の通り、戦後日本においてタブーであり、「お約束」とされてきたのが、その尾を踏まないということだったのである。しかし、私たちが知らないところで、どうやら政府はそのタブーを破ってしまったようだ。もちろん、そこで怒り狂うであろう米国というトラの牙は、日本政府だけではなく国民全体にも向けられることであろう。
恐ろしいのは、米国が何らかの手段により「日本の原子力技術はあてにならない、頼りにならない」ということを、世界に広く示すような挙に出る場合である。言うまでもなく、そうなったら最後、万一の場合には日本全体が巻き込まれ、もはやマーケットどころの話ではなくなってしまう。
意識してそうしたならば、大した戦略を密かに持っていることも考えられる。しかし、仮に無意識であれば、とんでもないことをしたことになる。マーケットにおける原子力セクターの動向もにらみつつ、“トラ”の動きから今後も目が離せないのである。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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