『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

続く「タックス・ヘイヴン狩り」の向こう側に見える本当の“潮目”

“タックス・ヘイヴン”とは何か?

“タックス・ヘイヴン”という言葉をご存じであろうか。日本では、租税特別措置法によって、「法人税の実効税率が25%以下となる国や地域のこと」を指している。日本の法人実効税率は約40%なので、“タックス・ヘイヴン”に子会社を設立することで、約15%以上もの“節税”を狙えるというわけだ。


1970年代以降、米欧系“越境する投資主体”は先を争うようにケイマン島(西インド諸島にある英国の海外領土)などに子会社を設立し、莫大な利益を得てきた。当然、高税率の先進国は、本来ならば自らが得るべき税収を“タックス・ヘイヴン”によって奪われてしまっていた。


このため、例えば別名“先進国クラブ”とも言われる経済協力開発機構(以下、OECD)などでは、ここにきて「タックス・ヘイヴン狩り」の話題でもちきりの観がある。

燃えさかる「タックス・ヘイヴン狩り」の今

このような観点から東京・国立市にある弊研究所で世界の“潮目”をウォッチする中で、次のような気になる報道が地球の裏側から飛び込んできた。


去る13日、イタリア・レッチェにおいてG8財務相会合が開催。そこで、24・25日にフランス・パリで開催中のOECD閣僚理事会において“タックス・ヘイヴン”の問題を再度議論する、との共同声明が出されたというのである(6月14日付 英トムソン・ロイター参照)。


ちなみに、これに先立ち4月2日に開催された第2回金融サミット(G20)でも、“タックス・ヘイヴン”を含む非協力的な国・地域のリストアップがなされ、これに対する「制裁措置」すら共同宣言に盛り込まれている。――つまり「タックス・ヘイヴン狩り」というストーリーはまだまだ続いているというわけなのだ。


こうした流れの中で、とりわけ鼻息の荒いのがドイツ勢だ。彼らは“タックス・ヘイヴン”のグレーゾーン国とされたスイス勢に対して、攻勢を強めてきた。それに対して米国勢はというと、多額の歳出を伴う景気回復策や、これから本格的に審議入りする「ヘルス・ケア改革」で一層の財政難に見舞われている。そのため「ストップ・タックス・ヘイヴン悪用法」導入を目指す一方、スイス系“越境する投資主体”の雄であるUBSに対し、法的措置をもって米国内での営業資格剥奪を突き付けているのである。来る7月8〜10日にイタリアで開催されるG8サミットに向けていかなる“潮目”が見えてくるのか、ますます緊張感が高まっている。

米国勢が本当に思い描いている次なるビジネス・モデルは?

依然として激戦の続く“タックス・ヘイヴン”という金融マーケットの最前線。その現状とこれからも含め、最新のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢について私は来る7月4日に東京、5日に浜松、静岡でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」で、じっくりとお話できればと考えている。ご関心のある読者の方々はぜひご来場いただければ幸いである。


ちなみに、ヘッジ・ファンド関係者の間ではこうした動きを“フェイク”として捉え、彼らの富の源泉である“タックス・ヘイヴン”は残るであろうという強気な見解が未だに大勢を占めている。しかし、果たして本当にその様な楽観論がまかりとおるべきなのだろうか?


この点について弊研究所は、“タックス・ヘイヴン”はついにはメルトダウンし、「キャプティヴ保険」を中心とした新しいビジネス・モデルがとりわけ米国勢の手によって東アジアで大々的に登場するとみている。「キャプティヴ保険」とは、事業会社がこれまで外部の保険会社にかけていた保険を、自らに専属する(=キャプティヴ〈captive〉)保険を営む海外に作った子会社にかけることにより、節税を狙うというビジネス・モデルである。確かにこうした「キャプティヴ保険」会社は、これまでも米欧勢を中心に大量に作られてきた。しかし、日本の会社では実に80社程しか設立していないのである。ここに目を付けたのが米国勢であり、一方で“タックス・ヘイヴン”を叩き潰しつつ、自らが圧倒的な影響力を持つ南太平洋の島々(=法人実効税率が25%ギリギリ)に「キャプティヴ保険会社」を日本の企業に作らせるべく、現在猛烈にキャンペーン中なのだ(この点につき、詳しくは「IISIAマンスリー・レポート」2009年4月号)を参照されたい)。


私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンにとっては、税制や保険はあまり馴染みがない。しかし、“タックス・ヘイヴン”の帰趨(きすう)とその陰に控えている「キャプティヴ保険」の密やかな動きは、米欧勢が巻き起こす今後の混迷する国際金融を左右する大きな“潮目”なのだ。これを見逃さずにしっかりとその予兆をとらえていくこと。これこそが私たちに求められる展開となってきている。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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