『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

新たな国益か、それともIT革命の二の舞か?麻生太郎の中央アジア戦略

G8サミットの持つ内政上の意味

8日から10日にかけて、イタリア・ラクイラで主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)が開催される。そもそもサミットとは、1973年のオイルショックとそれに伴うインフレーションや世界不況をきっかけとして設けられた、首脳間の会合であった。1975年、これらの経済的課題を討議するため、6つの主要先進国の首脳がフランス・ランブイエに集まった。サミットはこれを皮切りに、以後様々な変化を経つつ、現在まで定期的に開催されている。その後、カナダが加わり、さらに冷戦終結に伴いロシアが1998年のバーミンガム会議から参加するようになり、現在の「G8サミット」となった。また内容面についても、現在では経済的課題のみならず、政治的課題についても討議されるようになっている。


発足当初のサミットは、確かにそれなりに強い影響力があった。しかし、近年ではその影響力の低下とともに“形骸化”や、単なる“セレモニー化”が指摘されている。だが、ここで忘れてはならないのが、外交の現場であるはずのサミットが持つ「内政」上の効果だろう。開催国は開催地域の知名度上昇に伴う観光収入アップや、インフラ整備による内需喚起などの経済的なメリットを享受している。そこで、今回のG8サミットについても日本の“内政”に対してどのような影響をもたらすのかを見据えることが、“潮目”を見極めるためには不可欠なのである。

「カザフスタン投資」が負の“潮目”となる!?

こうした観点から東京・国立市にある弊研究所で世界の“潮目”をウォッチしていると、次のような気になる報道が飛び込んできた。


麻生太郎首相が、中央アジア・カフカス(英語名コーカサス)地域を軸にユーラシア大陸の南北と東西に交通路を整備する「ユーラシア・クロスロード」構想を、来たるラクイラ・サミットで表明する予定であるというのだ(6月30日付産経新聞参照)。


かつて麻生首相は、外相就任時(2006年)、「自由と繁栄の弧」と称する構想を提唱していた。これは“民主主義”や“市場経済”といった価値観を共有するユーラシア大陸外周の新興国に対して、日本としても支援や協力を行うことを内容とするアイデアだった。しかし、実際にはこの地域に隣接するロシア勢や中国勢を牽制するのが狙いではないかとも指摘されていた。他方で、これはブッシュ米政権(当時)下で外交政策に支配的な影響力を持ってきた“ネオコン”路線をサポートするものでもあった。だが、麻生首相の外相退任とともに、当初の鳴り物入りのアピールが冷めてしまったことは記憶に新しい。


そして2009年7月。あらためて3年前の出来事を想い出すと、今回の「ユーラシア・クロスロード」構想はその焼き直しであることに気付くであろう。もっとも麻生首相の郷愁だけでこうした展開になっているとはさすがに思えないのであって、その背後には日本の財界からの強いロビイングがあったであろうことも想像に難くないのである。なぜならこの構想のターゲットである中央アジア・カフカス地域は、石油、天然ガス、鉱物資源などの「宝庫」だからだ。日本がこうした地域の開発を主導することは、世界的な金融メルトダウンの中で低迷する日本に経済的な利益を呼び込むだけでなく、さらに石油などの天然資源の安定的供給先の確保でもあるからである。当然、こうした「成果」は政治家・麻生太郎にとっても大得点となる。


しかし、この“構想”には1つ気になることがある。それは、その対象国の1つであるカザフスタンについてだ。カザフスタンは政治・経済的な危機に見舞われている。いや、それどころではない。このままいくと、「デフォルト(国家債務不履行)」に至る可能性すら出始めているのだ。カザフスタンは石油などの天然資源に恵まれており、米欧勢の“越境する投資主体”、ロシア勢、そして中国勢などがこぞって投資していた。しかし昨年(2008年)9月の「リーマン・ショック」など、金融メルトダウンが激しくなる中、米欧勢の“越境する投資主体”たちは続々と投資を引き上げてしまった。その後、これから何が待ち受けているのかは、同じく“越境する投資主体”たちに依存していた1997年〜98年当時の東南アジア諸国を思い起こせばお分かり頂けるだろう――“クラッシュ”である。


そうした時期に、あえて日本勢がカザフスタンなど中央アジア・カフカス地域に投資を拡大するのには、大いに疑問が残る。なぜなら、あたかも「ドブにお金を捨てる」ようなことになりかねないからだ。もっともこうした危機感と共に思い出されることがある。それは、2000年に行われた九州・沖縄サミットだ。ホスト役の森喜朗首相(当時)が“IT革命”を喧伝し、IT関連投資を促進。ところがその翌年(2001年)「ITバブル」はあっさりと崩壊したのである。日本勢は果たして二度轍を踏むことになるのか、大いに気になるところだ。

内政上の野心が曇らす“潮目”を見る目

来るG8サミットの結果生じる“潮目”も含め、まさに今、激動するマーケットや国内外情勢について、私は、来る7月25、26日に福岡・広島、8月1日、2日に東京・横浜でそれぞれ開催する「IISIAスタート・セミナー」でお話する予定だ。御関心を持たれた皆様は、ぜひ会場に足をお運び願いたい。


近々、衆議院解散、そして総選挙が予定されている。他方で3日から17日にかけて天皇・皇后両陛下が米ハワイ及びカナダを御訪問され、この間、皇太子殿下が国事行為を代行されている。麻生首相はここに来て、「天皇皇后両陛下が外国御訪問中でも衆院解散・総選挙に踏み切る法的な障害はない」とも解せる発言をして物議を醸している。あまりにも内政重視の姿勢に批判が向けられているわけだが、この関連で1つ思い出すべきことがある。


それは、1985年9月の「プラザ合意」における当時の竹下登大蔵大臣(当時)のふるまいである。当時、竹下蔵相は総理・総裁ポストを狙っていた。対抗馬は「外交通」で知られていた安倍晋太郎氏(故人)。そこで竹下蔵相は外交面で実績を得ようと躍起になり、ベーカー米財務長官(当時)と強い個人関係を築くことで、国際社会に自分を売り出そうと画策したという。しかしその一方で、国際通貨制度に対する明確なヴィジョンを抱いてはいなかった。そうした状況の中、1985年6月のベーカー財務長官との会談で、竹下蔵相は円・ドルレートを一気に調整する合意をしてしまう。これが同年9月の「プラザ合意」の布石となってしまったのである。この合意により、日本は猛烈な円高による不況に見舞われ、日銀の金融政策の失敗に伴うバブル経済発生をもたらしたのだ。


世界の“潮目”を見極めているように見えて、実際には内政上の野心でこれを大きく見損ねてしまうのか?――今次G8サミットを機に麻生外交が巻き起こすかもしれない“潮目”の予兆を、私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンはしっかりと見極めていく必要がある。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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