『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

中国がサブプライム問題の悪影響を認めざるを得ない訳

「1、2」の次が「たくさん」になってしまう日本人

このコラムの中で私は、北京オリンピックを控え、「中国バブル第1次崩壊」が発生する危険性について、繰り返し警告してきた。その際、ファンドや投資銀行といった「越境する投資主体」たちが、まさにその方向へと次々に動いており、さらにその背後には米国を左右する閥族集団(「奥の院」たち)の意思が控えていることにも言及してきた。


しかし、こうした警告を発するたびに、繰り返し「いや、そんなことはない」と語る方々がいる。私は、中国バブル第1次崩壊のいわば起爆装置となるのが不動産バブルであり、かつ、そのことによって引き金を引かれるのが中国の名だたる金融機関の隠された不良債権問題だと述べてきた。これに対しても、「米国のファンド連中がよってたかって、中国の金融機関をはがいじめにしようとしてるだなんて、絶対にあり得ない。そんなことは無理に決まっている。陰謀論を語るのもほどほどにして欲しい」といった声が聞こえてくるのである。


大変不思議なことに、私たち日本人は微に入り、細に入ることになると、妙に卓越した能力を発揮したりする。だが、それとは逆に壮大なスケールの話、とりわけ世界史のシステム全体をゆるがすような話となると、「意味がない」「絵空事だ」と思考そのものをストップしてしまう癖があるのではなかろうか。


その姿を見て、私は子供のころに聞いた南の島国に暮らす人々をついつい思い出してしまう。絵本に描かれた架空の「南の島」に暮らす人々は、目の前に広がる海の向こう側の世界を知らない。そこで大切なのは、そんなことに想像力を働かせることではなく、日々生き抜いていくことだけだ。その結果、絵本に描かれた、いかにも人の良さそうな「南の島国の人たち」が数を数えると、「1」「2」の次が「たくさん」「いっぱい」になってしまう。それ以上、世界を知る必要がないからである。


想像力のキャパシティーを超えた瞬間に「陰謀論だ」と思考停止することで、一時の心の安寧を得ようとする私たち日本人。しかし、今回の中国をめぐる一件で、果たしてそうした「フリーズ(思考停止)戦術」は有効なのだろうか?

『穴熊』に追い詰められた中国バブル経済

世界中の経済・政治ニュースを選りすぐり、公式ブログでIISIAデイリー・ブリーフィング(無料)をお送りしている私の目からすると、この関連で急に気になってきたことがある。


まず1月20日にロイター(英国)が、「中国経済は米国経済からデカップリングされていない」と語る中国銀行幹部のコメントを世界に配信した。デカップリング論とは、昨秋より国際通貨基金(IMF)が主に語り始めた議論で、要するに「米国はサブプライム問題でもうダメだが、中国はサブプライム問題とは馴染みが薄いので、まだまだイケる」という論だ。日本でいえば日本銀行にあたる中国銀行の幹部が、こうした議論を否定し、「米国経済に依存してきた中国の輸出セクターは当然、悪影響を受けるだろう」といった趣旨の発言をしたのである。


その翌日(21日)、同じくロイターが今度は香港紙をキャリーする形で、「中国銀行がサブプライム関連投資で大規模な損失を被る可能性が出て来ている」と報じた。これまで中国はサブプライム問題とは無縁だと断言する論調が一般的であっただけに、驚きのニュースである。しかし、仮にこれが正しければ中国の金融機関は一斉に損失を公表せざるを得なくなり、下手をすると金融危機となる可能性があるのだ。


これら2つの報道を、いったいどのように解釈し、「世界の潮目」を導き出せば良いのだろうか。私は次のように考えている。


中国は、ついに米国によって、将棋の世界でいう「穴熊」に追い詰められた。将棋盤の隅に王将を陣取らせ、周囲を屈強の駒で固めるやり方である。これによって勝利する場合もあるが、積極な攻めは指せなくなる。下手な指し手は、たいていの場合、「穴熊」に徹することができず、ついには切り崩され、敗北してしまう。


中国は「米国経済が停滞すれば、中国経済も停滞する」と自虐的なことを語る。なぜなら、「今でも好調だ」ということになれば、たちまち米国(とりわけ議会に陣取る民主党議員たち)から「人民元の対ドル・レートを切り上げよ!」と要求されるからだ。だからこそ、「中国もやっぱり危ない。景気は米国と同じく、減退する」といわざるを得なくなるのである。


ところが、これを突き詰めて、「やっぱり中国もサブプライム問題の影響を実は受けていた」とは口が裂けても言えない。なぜなら、そうなればこれまで中国への期待が熱かった分、たちまち低落し、バブルが崩壊してしまうからである。そこでひた隠しに隠してきたのだろうが、当然、上場している中国の大商業銀行たちは、株主に対する説明責任を果たす中で、事実を明かさざるを得なくなってくる。だからといって、「いや、それでも好調です」ともいえない。そうなると「だったら人民元を切り上げよ」と米国から要求されるという、第一の問題に立ち返ってしまうからだ。


まさに「穴熊」である。米国の「越境する投資主体」たちにしてみれば、時間は(当初予定されていた昨秋よりも)やや時間はかかったものの、「パーフェクト・ゲーム」にご満悦だろう。

「世界の潮目」を見極める能力こそが必要だ

1月に相次いで刊行した新著『北朝鮮VS.アメリカ 「偽米ドル」事件と大国のパワーゲーム』(ちくま新書)、および『世界と日本経済の潮目 メディア情報から読み解くマネーの潮流』(ブックマン社)においては、そうした観点から日本、中国、そして東アジアにおいて欧米の「越境する投資主体」たちが繰り広げる経済利権抗争と、そこに見られる「潮目」を克明に描いてみた。また、2月9日に東京で開催する無料学習セミナーではこうした「中国バブル第1次崩壊」のカラクリについても、じっくりとお話する予定である。


「1、2、たくさん」と、いつものように思考停止に陥っているヒマは、私たち日本の個人投資家には無い。むしろ、そうした壮大なシナリオだからこそ、逆に私たち日本人を嵌めようとしているのではないかと、かえって神経を尖らせる必要があるというべきだ。


中国経済はこれからの「崩壊」の後、今度は2010年の上海万博に向けて、あらためてバブルの山を登って行くと私は考えている。そして、むしろそこから先にある「崩壊」の方が、今度は二度と這い上がることのできない奈落の底である可能性が高いのだ。


その意味で、程なくしてやってくる「中国バブル第1次崩壊」という現実は、そのことに向けて、すでに世界中に現れ始めている「潮目」を読み解く能力を持つ日本人と、そうではない日本人とを分離させる現象ともなるだろう。勝負の時は、すぐそこまで来ており、そこでの「敵」は、他ならぬ私たち自身の心の中に巣食う漫心なのではなかろうか。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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