投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
「非同盟諸国会議」が米国に牙をむく暑い夏
「会計ショック」の裏にある画策
世界の名だたる銀行家たちが口々に「金融不安は去った」と語っている今年の夏。しかし、米国由来の証券化された金融商品の損失額は日に日にふくらむばかりである。ついにはその総額が1兆ドルだというIMF(国際通貨基金)の推定が再び語られ始めた。それにもかかわらず、米欧系“越境する投資主体”たちはこれをひた隠しにしている。
彼らはあの手この手を使っては「会計ショック」を先送りする一方で、その損失を補てんすべく、プリンシパル・インベストメント(自己勘定取引)によるトレーディングで、いわば「別腹」を増やしていくことを画策しているのだ。現在、「原油」「為替」「金(ゴールド)」「債券」「株式」が乱高下し、地政学リスクが収まらないのはそのせいだと考えておくべきである。
そうした“仕掛け”の1つが、風雲急を告げているイスラエル及び米国による「対イラン限定的空爆」である。下手をすると「死の灰」が降りかねないこの「空爆」は、原油・金マーケットを暴騰させることだろう。
しかし、ここに来て1つの疑念が囁かれ始めている感がある。「証券化された金融商品に基づく損失額は、その規模の紛争によるマーケットの潮目で埋められるのか」というのである。つまり、より大規模な紛争に発展する可能性がささやかれ始めたのである。
非同盟諸国会議加盟国の不穏な動き
公開情報を中心に「世界の潮目」を追っている中で、これに関連して気になる報道が1つあった。去る7月28日に北朝鮮代表団はイラン入りし、テヘランで行われている「非同盟諸国外相会議」に参加した。そして、朴宜春・北朝鮮外相とモッタキ・イラン外相による外相会談も行われていたのだという(7月30日付朝鮮放送)。
北朝鮮とイランを巡っては、北朝鮮がシリアを通じて、「イランの核兵器開発」を支援していると米国とイスラエルが糾弾してきたという経緯がある。昨年(2007年)9月6日には、シリアにある施設をイスラエル空軍が空爆したくらいである。米国やイスラエルにとっての、いわば「主敵」ともいうべき北朝鮮とイランが「非同盟諸国会議」を理由に、一堂に会しているのである。気が気ではないだろう。
「非同盟諸国会議」は政治および経済面での協力を前面に出しているが、軍事分野及びインテリジェンス分野における協力関係が強化されていることも見逃せない。実際、7月3日には、米国とは“水と油”の関係にあるべネズエラの首都カラカスで非同盟諸国情報相会議が開催されている。その内容は明らかとされていないが、米国の「主敵」たちが今後の対米政策をめぐり相談したであろうことは容易に想像がつく。
その一方で、こうした動向に米国としても無関心でいられるわけでもない。しかも、相手は「イラン」「北朝鮮」「べネズエラ」など1ヶ国ではなく、“ブロック”なのである。これに対するため、米国も“ブロック”を作り始め、それがまた緊張、そして地政学リスクを高めていくことは、想像に難くない。
日本も参加していた非同盟諸国会議
こうした高まる地政学リスクを含め、私は8月30・31日に大阪・名古屋、そして9月6・7日に東京・横浜でそれぞれ開催する IISIAスタート・セミナー(完全無料)で、いよいよ始まった世界の歴史的な大変換とそれに伴う「潮目」の今についてじっくりとお話したいと思う。
ちなみに非同盟諸国会議とは、1961年、主に戦後の独立国たちが集結し、東西冷戦の中であっても、どちらの陣営にも属さない“第3の勢力”として出現した協議体である。その鼻息の荒さも知らており、例えば、1973年にアルジェで開かれた第4回会議では、新国際経済秩序(NIEO)のベースとなる「アルジェ憲章」を採択して国際社会に大きなインパクトを与えた。
当初、参加国は25ヶ国であったが、現在では118ヶ国・地域まで拡大しているというのだから一大勢力だ。
なお、1961年第1回非同盟諸国会議の先駆となったのが、1955年に開催された「バンドン会議」である。この会議では、“民族自決”を掲げて“脱植民地化”が提唱され、その後に成立した非同盟諸国会議へとスローガンが引き継がれていくのである。
いまではすっかり語られなくなった史実だが、何を隠そう、日本もこのバンドン会議に参加していたのである。当時、日本は、「米国などの西側世界とだけではなく、中国やソ連を含む東側世界とも第2次世界大戦を終わらせる平和条約を結ぶべきだ」という“全面講和論”の立場も強く主張されていた。そうした流れの中で、日本はこのバンドン会議にも参加したのである。しかし、結局のところ日本政府は「まずは西側世界と平和条約を結ぶべき」という“単独講和論”の立場を選び、この非同盟諸国会議とも距離を置くこととなるのである。
しかし、この暑い夏、“忘れ去られた”はずの非同盟諸国会議が“ブロック”として、場合においては米国に牙をむくことになりかねない。その時、53年前に席を同じくしていたニッポンはどんな態度をとり、その結果、マーケットとそれをとりまく国内外情勢には一体どんな「潮目」が生じていくのか私達日本の個人投資家にとっても、その意味で暑い夏となりそうである。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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