投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
“朝鮮統治”で真に得をしていたのは誰か?
「過去の清算」を激しく求める北朝鮮
ここにきて、また北朝鮮が世界の耳目を集めるようになっている。3月12日、北朝鮮が国際海事機関(IMO)に「人工衛星」の打ち上げを事前通告した旨が報じられた。発射時期は4月4日から8日の間、そして発射の方角は日本海・太平洋であるという。当然ながら日本では連日さかんに北朝鮮や関係各国の動静が報道され、国際的にも激しく物議を醸している。
「人工衛星」発射後の日本の安全やその後の対北朝鮮関係の行方など当然に案じられる事項に加え、発射時期が4月2日にロンドンで開催される第2回G20金融サミットの直後であることも極めて注意を要する点だといえる。だがそんな中、最近の北朝鮮報道を見ていてもう1つ気になることがある。それは、北朝鮮が日本に対し、「過去の清算をしろ」と再び盛んに叫び出したことである。
例えば、3月5日に出された北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、日朝間における過去の清算は信頼回復の「先決条件」であり、関係改善の「前提」である点を強調している。その筆致を見る限り、例によって例のごとく、日本側からの一切の反論を許さない、ものすごい剣幕なのである。
もっともこの問題について、日朝間でこれまでやりとりがなかったわけではない。過去13回にわたって行われてきた日朝国交正常化交渉で繰り返し話されてきたテーマであるし、小泉総理(当時)による電撃訪朝(2002年9月17日)でつくられた「日朝平壌宣言」にも、この点について触れた部分がある。
しかし、根本的に日朝間で争いは残ったままなのだ。なぜなら、日本にとって北朝鮮は旧植民地であり、国際法をどう解釈したところで“戦争状態”にあったとは言えないからだ。したがって、いわゆる戦後賠償にはなじまず、韓国に対してかつて行ったように、“実態としてのアプローチ”を模索しようとする。
これに対し、北朝鮮は「軍事侵略であったし、武力闘争であった」と主張し、一歩も譲らない。悪いのは日本側だとの一点張りである。
このままでは全く前には進まない。だからこそ、今、あらためて問うてみる必要があるのだ。日本がかつて35年間にわたって行った朝鮮統治によって、本当に得をしたのは誰なのかということを。 そして、それがいかなるシステムによって支えられ、現在そのシステムがいかなる転換を遂げようとしているかということを(この世界大のシステム転換について、詳しくは拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』(ブックマン社、2009年1月刊)を参照されたい)。
“朝鮮統治”という1つのビジネス・モデル
この問題は余りにも複雑であり、単純化して述べてしまってはその本質を見誤る危険性がある。しかし同時に、あくまでも冷静に、普通の目線で当時の朝鮮における“日常”を見つめることで、新たな発見をすることが必要でもあるのだ。
たとえば、過去における朝鮮統治の問題を考える時、次のような質問をされたならば、読者の皆さんはどのように答えるだろうか。
「日本による植民地統治下にあった朝鮮半島で、石油を売っていたのは誰なのか。そこにも日本人による現地住民に対する“搾取”という絵柄が見て取れるのか」。
恐らく答えに窮する読者が多いに違いない。「第2次世界大戦へと突入する直前まで、朝鮮半島で石油を独占的に販売していたのは、日本勢ではなく、英米勢だった」というのが、この問いに対する正解なのである。
朝鮮統治が行われた1910年以降の大部分の時期において、現地での石油販売を独占していたのは米系のスタンダード社、そして英系のライジングサン社(後のシェル)なのであった。なぜこれら2社が朝鮮マーケットを独占できたのかといえば、これらいわゆる「外油」に対しては、輸入に際して特例関税が課されていたからである。具体的には、当時、日本のいわゆる「内地」に石油を輸入するにあたっては高額の輸入税が課せられていたのに対し、朝鮮という「外地」については消費者に安い石油を使わせるべしという理由で、無税に近い税率が設定されていたからである。そのため、外国から輸入した石油を朝鮮へと転売する日本の石油企業は著しく不利な立場に置かれていたわけなのだ。
満州(現在の中国東北部)における鉄道などについてもいえるのだが、日本の大陸進出を巡るビジネス・モデルには、常にこれと全く同じ1つのパターンが見え隠れする。すなわち、表向き「進出」していくのは紛れもなく日本である。だが、その一方で目立たないが重大なセクター(インフラストラクチャー)で広く、着実に収益を上げていたのは米国勢、そして英国勢なのであった。
もちろん、第2次世界大戦の足音が響き始めると同時に、これら英米勢は駆逐され、日本勢が代わりに入っていくことにはなる。しかし、だからといって「朝鮮統治」というビジネス・モデルは日本が単独で担ったものではなく、むしろステルス(透明)で、より狡猾な形でそれによって莫大な利益をあげていたのは他ならぬ英米勢だったのである。そして問題なのは、こうした単純な「史実」であっても、私たち=日本人が学校で学ぶ機会はほぼ100パーセント無いという現実なのである。
確かに、過去の一時期において「不幸な出来事」が日朝間で生じたことは否定できない。しかし、だからといって朝鮮統治というビジネス・モデルの展開によって現地が被った全ての償いを日本に対して求める一方、いわば“本当の黒幕”だった英米に対しては何も問わないという主張は、全く肯んずることはできないのである。そして、こうしたダブルスタンダード(二重の基準)自身に見え隠れする虚構こそ、今の日本、そして東アジア・マーケットを見る私たち=日本の個人投資家の眼を曇らせる最大の要因でもあるのだ。
失われた歴史の中にこそ明日への道標がある
こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その背景にありながら私たち=日本の個人投資家が知ることのなかった歴史上の“真実”について、私は、4月4、5日に東京・横浜で、4月18、19日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナーで詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。
ところで、以前行ったこの「IISIAスタート・セミナー」の際、聴衆の1人であった方が休憩時間に近寄ってこられ、次のように話しかけてきた。
「米朝関係について話されていたが、米国が経済利権を狙って北朝鮮に接近し、そのために日本を出し抜こうとしているなんていうのは真っ赤なウソだ。そもそも北朝鮮には、もはやめぼしい鉱物資源は残っていない」 。
これを聞いて、正直、私は呆気にとられてしまった。それならば、なぜ、米国は2007年1月より北朝鮮に急接近し、ついには「テロ支援国家指定の解除」にまで踏み切ったというのか。核開発の“再開”を事実上宣言しているというのに、なぜ北朝鮮を米国は糾弾しないのか。さらにいえば、ここにきて何故急にロシア、そして欧州各国より様々なレベルの代表団が訪朝しているというのか。特にロシアは鉄道敷設の関係者たちがなぜ足しげく平壌詣でを繰り返しているというのか。
とかく米国の自作自演である金融メルトダウン(溶解)にばかり眼を奪われてしまう私たち=日本の個人投資家であるが、ファンドや投資銀行など米系“越境する投資主体”たちを中心に、現代金融資本主義の猛者たちが今、正に狙いをつけているのは朝鮮半島、日本、そして東アジアなのである。しかし、そこでは確実に私たち=日本人が出遅れるよう、巨大な目隠しが仕組まれつつあるのだ。
「失われた歴史の中にこそ、未来の道標がある」。
朝鮮統治というビジネス・モデルに物言わぬ石油の歴史を重ね合わせた時、明日の東アジアにおける未来を透徹するための眼差しを得ることができるように感じるのは私だけだろうか。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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