村上氏逮捕!乱高下する株式市場で身を守る3つのポイント

村上世彰氏、逮捕!

6月5日(月)の日経新聞トップ1面に躍り出た「村上代表きょう逮捕」というセンセーショナルな文字。昨年大いに話題となった「ニッポン放送」株の取得方法をめぐり、村上世彰氏率いる村上ファンドがインサイダー取引をしていたというものです。

インサイダー取引とは、事前に取得した情報をもとに株式の売買を行うこと。もともとライブドアがニッポン放送株を立会外取引で大量取得した2005年2月8日以降、村上ファンドはあまりにもタイミングよく株を売却し大儲けしていたため「事前に情報を得ていたのではないか」という疑惑を持たれていました。

証券取引法では、公開株の5%以上を買い集める行為はTOB(株式公開買い付け)に準ずるとして、買い集め情報を入手した者(ここでは村上代表)が情報公開前に株を購入することをかたく禁じています。

村上代表は逮捕前の5日午前11時、記者会見を開き、ライブドア前取締役の宮内亮治被告から「ニッポン放送株の『公開買い付けをやりたい』という言葉を聞いてしまった」とインサイダー取引を認め、投資事業から引退すると明言しました。そして、5日午後、東京地検特捜部は証券取引法違反容疑で、村上氏を逮捕しました。

「村上氏逮捕」を受けた5日の株式市場は、全体的に軟調な推移ながら、最初にインサイダー疑惑が報道された6月2日(金)ほどの乱高下はありませんでした。【ポイント1】

不祥事の連鎖に臆病になる株価

最初の報道がなされた2日の株式市場では、村上ファンドが大量保有する住友倉庫、松坂屋などの株価が急落、東証マザーズ指数などの株価指数にいたっては、指数ベースで一時1割を超える下落見せました。かと思えば、終値ベースでは上昇に転じるなど乱高下し、株価に振り回される1日となりました。【ポイント2】

その日、とある記者から焦りにも似た電話がかかってきました。「オリックス株が暴落している」と。オリックスは、5月に村上ファンドへの出資の引き揚げと、実質的な提携解消を発表していました。

しかし、村上ファンドへの最初の出資者がオリックス会長宮内義彦氏であったという事実が株価に悪影響を及ぼしたのかもしれません。一方で、「村上ファンドの次は、大手企業もしくは大物人物に嫌疑がかかるのでは?」といった見方をする人もおり、疑心暗鬼が株式市場を覆っていました。

株価下落の背景は「会計不祥事」

年初より続く、株価軟調ぶりの原因を探ると、「会計不祥事」というキーワードが当てはまります。そのきっかけはもちろん、ライブドア・ショック。村上ファンドの事件はその延長線上で考えられます。振り返って見ると、今年の株価アップダウンは、会計不祥事がきっかけとなっていることが分かります。

・1月16日 ライブドア強制捜査/日経平均株価16,268.03円
・1月23日 堀江前社長逮捕/同15,360.65円
・5月9日 中央青山監査法人業務停止/同17,190.91円
・6月2日 村上ファンド捜査報道/同15789.31円

この株価の動きを演出したのは、会計不祥事を嫌気し売りに転じた外国人投資家でした。今後の株価の値動きを考える上では、外国人投資家の動向を注意深く観察する必要があります。現在の日本の株価を動かす最も大きな要因の1つは外国人投資家だからです。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
ライブドア強制捜査→堀江前社長逮捕という流れを一度「経験」していたことが、今回、それほどの混乱を引き起こさなかった要因でしょう。何事も経験が大事。後講釈でもいいから、自分なりに投資ノートをつけておくこと、そのとき事実をしっかりと記録しておくことが重要です。すると、株価の上下が血肉に代わり、いつでも引き出すことのできる自分だけの知恵に生まれ変わります。
【ポイント2】
株式投資で株価の変動に一喜一憂してしまうのは仕方のないことです。しかし、焦ってしまうことだけはいただけません。特に不祥事の場合はなおさらです。大事なことは、不祥事以前に、「応援できる会社」に投資をする、という姿勢をしっかり持っていることが大切です。
「応援できる会社」は、各社のホームページを見ると明らか。ホームページを見て「IR(投資家向け)情報」などに簡潔に会社のメッセージや方針を伝える資料がある会社は、投資家に情報を積極的に開示しようとする姿勢あり!と考えられます。中期計画などが発表されていて、さらに将来にわたって業績が伸びると明言している会社をじっくり応援するというのもひとつの方法です。
【ポイント3】
アメリカでは、2000年にエンロン事件など、世界を揺るがす会計不祥事が起こり、NYダウが一時7,000ドル台にまで暴落したことがあります。しかし、時を経て反発、10,000ドル台にまで回復したのです。外国人は成功体験としてこの事実を覚えています。外国人は、今は売りに回ったとしても、再び魅力ある日本株を買ってく可能性は高いのです。
アメリカでは、株価が回復する過程において、「不祥事の撤廃」に直結する法改正などが行われました。日本でも同様に不祥事が起こらない国づくりをしていくことでしょう。慎重な投資をしたい、と考える場合、法改正、裁判状況などをつぶさに観察していき、その都度、投資資金を積み増していく、という方針がよいのではないか、と思います。

私は村上氏逮捕のニュースを名古屋での株式講演会の前に確認しました。「物言う株主」の代表的な存在だった村上氏の逮捕に、日本の金融ビジネスの脆弱さを見た気がして残念な思いです。みなさんはこのニュースをご覧になり、どんな風に感じられましたか?(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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