“話下手の新皇帝”バーナンキ議長はグリーンスパンになれるか

世界同時株安のキッカケはアメリカ。

6月13日(火)の東京株式市場は、日経平均株価が今年最大の614円安という大暴落を演じてしまいました。4月の高値からたった2ヶ月で3,500円も下落、下落率は約20%にのぼります。

この下落率20%は、3ヶ月で21%下げた1987年10月のブラックマンデー(世界的株価大暴落)当時に匹敵します。ブラックマンデーとは、1987年10月19日に起こったニューヨーク・ダウの大幅な下落のこと。この日、ニューヨーク・ダウは1日の取引で508ドルも下落。この株価暴落は世界の株式市場へも波及し、ニューヨーク市場に次いで東京市場、ロンドン市場、フランクフルト市場などでも株価が暴落しました。

さすがに今回ほどの急速な下落は、近年例を見ないものでした。しかし、こうした動きは日本だけのことではありません。世界中の株式市場でほぼ同時に株価の乱高下が起こりました。その理由はアメリカにあります。そして直結するキーワードは「金利」です。

今年2月、アメリカのお金の元締め「FRB」の議長に就任したベン・バーナンキ氏の発言から、「金利が上がるのでは?」という懸念が世界中で渦巻いてしまったのです。

特に問題になったのは、5月1日のCNBCテレビの放送でした。

CNBC Market Dispatches 2006/05/01

Bartiromo, on CNBC's "Closing Bell," said the Fed boss told her at the White House Correspondents Dinner on Saturday night that the markets misunderstood him last week to say the Fed is done raising interest rates.

CNBC記者は5月1日の放送で、「ホワイトハウスでの夕食会で、バーナンキ議長が『利上げに消極的だという市場の見方は誤解だ』と語った」と伝えた。

この「金利を上げる」とも捉えられる発言に株式市場は敏感に反応、早期の利上げ休止を織り込みつつあった市場を大きく揺らし、株価下落につながったのです。【ポイント1】

金利という株式市場をかく乱するキーワード

株価急落のキッカケになったバーナンキ議長は、FRBという政府機関のトップです。

FRBとは、米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)の略。日本でいえば日本銀行と同じ業務を行っています。なかでも重要な業務が、景気動向にあわせて金利の上げ下げを決定することです。

ではなぜ、金利が上がるというコメントに株式市場が反応したのでしょうか?それは、「金利を上げる」ということは「景気が過熱に近づいている」という意味と捉えてしまったからです。そのため、金利引き上げにより「米景気減速→米企業収益伸び鈍化→世界景気失速」という流れを引き起こすと投資家は考えてしまっているのです。

しかも、アメリカのニューヨーク・ダウなどの市場平均は、金利が下がる局面で上昇し、金利が上がる局面では下落しているケースが見受けられます。こうしたことを経験則として持っている外国人投資家は、バーナンキ議長の発言を受け「株が下がる」と思い、株の売却に動いています。

日本では3月に量的緩和が解除され、いつゼロ金利が引き上げられるかに注目が集まっていました。日本でも金利がこれから上がっていく可能性が出てきていたタイミングです。そのため、ライブドアや多くの不祥事があっても踏みとどまっていた日本株も、金利が上がりそうだという理由で売られてしまったのです。

一方で、足元では、2006年6月に利上げ継続が確実なものとの見方が強まったため、株価は大きく反発、小康状態を保っています。これほどまでに市場では金利の動向が株価を大きく動かしているのです。【ポイント2】

“話下手の新皇帝”バーナンキ議長はグリーンスパンになれるか

「利上げ」発言の主、バーナンキ議長は1953年生まれ。ハーバード大学経済学部を最優等で卒業し、プリンストン大学経済学部学部長に就任した秀才です。その経歴を買われ、FRB理事などを歴任し、2006年2月議長に就任しました。

そんな華々しい経歴の持ち主ですが、「利上げに消極的だという市場の見方は誤解だ」というコメントを発してから、市場関係者を中心に評判が悪くなってしまっています。しかも議長職を引き継いだのが今年の2月と、まだそれほど時が経っていなかったため、「天才」「マエストロ(名指揮者)」と評価の高いアラン・グリーンスパン前議長と比較されてしまっているのです。

しかし、グリーンスパン氏にも、駆け出しの頃がありました。1987年のブラックマンデーは、実はグリーンスパン氏がキッカケとなって起こっています。

グリーンスパン氏は1987年8月、当時カリスマであったポール・ボルガー氏から議長を引継ぎ、金利の引き上げを決定しました。そのとき市場関係者には「アラン・グリーンスパンって誰?」と不安がありました。そして2ヵ月後、ブラックマンデーが起こったのです。

しかしグリーンスパン氏はその後、巧みな金融政策で90年代のアメリカの好景気を支えた人物として高い評価を得ています

今後、バーナンキ議長がグリーンスパン氏のような評価を得られるかは不透明です。しかし、アメリカのみならず、日本など世界のマーケットに影響を与える人物であることには間違いありません。それがどのような内容であろうと、投資をする上で、彼の発言を無視することはできません。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
いくら私たち日本人が日本株に強気でも、市場に大きな影響を及ぼす外国人投資家が弱気になってしまったら、株価は下がってしまいます。日本の売買代金の半分は実は外国人投資家。いくら国内投資家が強気でも、外国人投資家が弱気になってしまっては、株価が下落してしまうこともあります。 外国人投資家の「買い越し」「売り越し」については、外資系証券の売買状況を見れば分かります。デイトレーダーにとってはこうした情報は必須のものですが、一般投資家には少々難しいものです。また、こうしたことに日々一喜一憂するのも望ましくありません。
外国人投資家は一時的に日本株を売却しているだけで、いずれ日本に再び投資をする可能性があります。ここ数年何十兆円もの資金を日本に投下している外国人投資家の大きな投資姿勢は変わらないと考えてよいでしょう。
【ポイント2】
さらに、金利と株価が「どのように」連動しているのか、アメリカと日本の違いを知っておくことも必要です。アメリカは金利が上がると株が下がっています。ところが、日本はまったく逆。日本の金利が上がるとき、株価は上がっています。これから「ゼロ金利が解除」される可能性が高い日本は、金利が上がる可能性を秘めています。つまり、アメリカと違い日本の株価が上がる可能性があるということです。
【ポイント3】
アメリカ発の金利状況が株価を動かすことは否定できません。しかし、それは短期的なものであるということも理解する必要があります。昨年もアメリカでは金利の引き上げが行われましたが、その際、日本株が大幅な上昇を見せたことは記憶に新しいでしょう。日本とアメリカの金利・株価連動性の違いを知っていれば、いま外国人投資家が「勘違い」していると気づき、日本株への投資に積極的になることも考えられます。

日本はゼロ金利が長く続いたため、金利に対する議論が少し騒がれすぎのような気がします。日本の金利が上がることは、これから景気が良くなるということと同じ意味。私たちは、15年も不景気に耐えてきました。金利が上がり、景気が良くなるということにもっと自信を持っていいと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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