バーナンキ議長も景気後退に言及。“山場”を目前に控えた米経済

「金融市場は依然としてかなりの緊張状況にある」

4月2日の米上下両院合同の経済委員会で、連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は「景気後退はありうる("A recession is possible")」と、初めて米景気の後退について言及しました。

バーナンキ氏は他にも、「(米経済の現状は)非常に難しい局面にある」、「金融市場は、依然としてかなりの緊張状況にある」と、米経済に対して厳しい認識を示しました。【ポイント1】

この言葉の通り、米金融市場は非常に厳しい状況に置かれています。それを如実に物語るのが、米銀行大手JPモルガン・チェースによる米証券大手ベアー・スターンズの買収です。

JPモルガンはFRB傘下のニューヨーク連銀から資金を調達し、サブプライム問題で実質的な破たん状態にあったベアー・スターンズを買収しました。これは、FRBによる実質的な公的援助と捉えられています。

この件に関してバーナンキ氏は、「我々の金融システムは極めて複雑で相互につながっている」と、ベアー・スターンズ以外の企業に破たんが連鎖する可能性を想定していたことを明らかにしています。その上で「3月13日には、(ベアー・スターンズから)翌日には連邦破産法の適用を申請したいとの連絡があった」とも語りました。

ベアー・スタンズの破産法の申請、そしてそれによる連鎖的な破たん。こうした状況も想定される、まさにギリギリのタイミングでの“公的援助”の決断だったのでしょう。

山場は4月中旬の欧米金融機関の決算発表

この決断もあり、最悪の事態はまぬがれ、金融不安はいったん落ち着きました。結果、株価も世界的に回復傾向にあります。日経平均株価は、2月の高値1万4,000円を伺う展開となっています。また、一時は95円台に突入したドル円も、現在は102円前後で落ち着いています。

とはいえ、不安が完全に払拭されたわけではありません。今後、山場となるのは4月中旬に予定されている欧米金融機関の決算発表でしょう。

足元の状況は、金融機関が相次いで資本増強策を発表していることもあり、比較的落ち着いています。具体的には米証券大手リーマン・ブラザーズの40億ドルの転換優先株の売り出しや、スイス銀行大手UBSの150億ドルの増資計画などです。

しかし、4月18日に決算発表を予定している米銀行最大手シティ・グループについては、100億ドル、つまり1兆円以上の損失を計上するとのアナリストの予想も出ています。シティは、これまでにサブプライム関連で300億ドル規模の損失を計上しています。

FRBによるベアー・スターンズの“実質的公的援助”や金融機関の資本増強で、いったんは落ち着いた米金融市場も、4月中旬に発表される決算の内容によっては、再び動揺が広がる可能性があります。

日本株についても、もちろん米国と切り離して考えることはできません。世界中の株価が同時に動くといっても過言ではないこの時代です。欧米金融機関の決算発表は注目せざるを得ません。【ポイント2】

更なる株価下落はあるか?

もちろん、金融機関だけを見ていたらよい、というわけではありません。これまでも何度か述べたように、米国では、国力を示す国内総生産(GDP)のうち、個人消費が7割を占めています。株価の下落は消費を冷やし、消費低迷はさらに株価を押し下げる。そういった状況が十分、想定できます。

そのため、私は現在1万2,500ドル前後で推移しているNYダウが、1万1,000ドル台にまで下落するのではないかと考えています。しかし、バーナンキ氏の決断に見られるように、米国では金融行政が機能していますので、日本で起こったような、株価が何分の1になってしまうという事態は避けられるのではないかとも考えています。

一方、日本株はどうか。残念ながら強い点が見当たりません。4月、5月には3月期決算企業の業績発表並びに来期見通しが明らかになり始めます。しかし、勢いを感じさせる企業が少ない、というのが現実でしょう。

結果、日米ともに株価は積極的に上昇するタイミングとは捉えにくい、という結論になってしまいます。ただ、新興国に関しては、デカップリング(非連動性)論が否定され、欧米と同様にサブプライムの影響を受けてはいますが、爆発的な内需の拡大は引き続き見込まれます。であれば、いったん引いた資金も戻ってくるのではないかと考えられます。

いずれにせよ、不安定な市場環境が続く中、頭にどれだけ汗をかいたかによってパフォーマンスが変わってきます。日本のみならず、世界中から投資チャンスを探すことを怠ってはいけないでしょう。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
景気動向を考える上で、雇用者数は重要な数値です。米国では、1−3月の合計で雇用者が23万人以上減り、3月の失業率は2年半ぶりの高水準である5.1%にはね上がりました。製造、小売り、建設など旧来型の産業は総崩れで、比較的堅調だったハイテクやサービスも低迷しています。私は、雇用減少の長期化がGDPの柱である個人消費を冷え込ませる可能性があると考えています。
【ポイント2】
こうした金融の激動期に、中央銀行の総裁が不在である日本は、世界から金融面で孤立してしまいます。政治のドタバタ劇に、世界の投資家はあきれ果てているのではないかと思います。もしかすると、無視されている可能性もありますが…。
【ポイント3】
世界中から投資対象を探すため、2月にはインド、4月にはタイ・ベトナムを訪問してきました。さらに、今年はアメリカ、カナダ、ロシア、マレーシア、韓国にも取材に行きたいと考えています。「百聞は一見に如かず」。まずは、アジアを中心に世界を眺めてみたいと考えています。

つい最近まで、日本のことだけを考えていれば良かった時代が長く続いたように思います。でも、最近では逆に海外について積極的に情報を収集しなければローカルな金融マンになってしまうと危機感を抱いています。世界に通用する金融マンになるためにも、海外と積極的に関わっていきたいと考えています。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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