「国策に売りなし」株価を動かす投資テーマとは?

暑い夏に株価はどう動く?

気象庁は7月30日、「中国、近畿、東海、北陸、関東甲信の各地方が梅雨明けしたとみられる」と発表しました。同庁によると、各地に大災害をもたらした梅雨前線が30日になって突如消滅。通常の梅雨明けパターンと異なり、同庁にとっても「想定外」の電撃発表となったようです。

そんな今年の梅雨明けとは違い、投資の世界では夏は「想定外」の電撃発表は起こりにくい季節です。外国人投資家はバカンスを楽しんでいますし、そもそも暑い夏にあれこれ考えるのは人間誰しも得意ではないのでしょう。

こんなときは、「投資テーマ」についてあれこれ考えてみてはどうでしょうか。一番分かりやすいのは「季節」に関係しているもの。例えば夏季の売り上げに大きく依存している「サマーストック銘柄」です。

エアコン大手のダイキン工業(6367)はサマーストックの代表銘柄といえますし、平均気温が20度を超えると売れ始めるといわれるビールや化粧品(日焼け止め)、アイスクリームなど、「暑い夏」が株価上昇の要因になりうる銘柄はたくさんあります。

一方で、暑すぎる夏は株価が低調に推移するというデータもあります。大和総研の調査によると、1961年以降、7−8月の日次平均気温が30度以上だと日経平均騰落率がマイナスになっています。大和総研チーフクオンツアナリストの吉野貴晶氏は「適度な暑さが経済や株価にとっては良いようだ」と指摘しています。

いずれにしろ、夏の気温は株価に影響を与える重要な投資テーマだといえます。【ポイント1】

マイナスをプラスに変える発想法

「サマーストック」をもう少し長いスパンで考えてみると、投資テーマはもっと広がります。夏が終われば今年は暑かったのかどうかはっきりします。こうした既に確定したことを振り返る、いわば「バックミラー」を見ることも有効な投資方法です。

たとえば、2003年の日本は1993年以来10年ぶりの顕著な冷夏となりました。

今年は記録的な冷夏になりそうだ。気象庁によると東京都心の7月の平均 気温は22.8度で平年を2.6度下回った。8月も夏らしさは今ひとつ盛り上がらない。(中略)10年ぶりの冷夏といわれる今年。夏物消費の不振はようやく底離れを探るところまできた景気にどれだけ打撃を与えるだろうか。

2003年8月21日付日本経済新聞朝刊5面
「身近なデータで読む景気(6)10年ぶりの記録的冷夏、消費、夏物から振り替え」より

夏の気温が低いとビールやエアコンなどの購入が落ちこみます。野村総合研究所の調査では、東京都心の7−9月の平均気温が前年より1度下がると、夏物消費を約4%押し下げるという結果が出ています。実際に03年の小売企業の業績は芳しくありませんでした。

この場合、2003年の夏が終わった時点で、「今年の夏は冷夏だった。つまりマイナスからのスタート、来年は通常の夏に戻っただけでプラスになる」と予測することが可能です。

実際に、株価は冷夏で騒がれた2003年が底で、翌2004年には多くの小売企業が業績を伸ばし、株価もそれにつれて堅調な推移となったのです。

例えば、2003年8月末から2004年8月末までの1年間で、伊勢丹(8238)の株価はは21%の上昇、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)の株価にいたっては63%もの上昇を果たしたのです。

その期間、日経平均株価は7%の上昇にとどまっていることを考えると、小売株の驚異的なパフォーマンスがお分かりいただけるでしょう。

季節要因といえば、「冷夏・猛暑」のほかに「暖冬・厳冬」などもあります。冷夏や暖冬は小売企業にとっては決して喜ばしいことではありません。でも、季節要因という視点を持ち、投資期間を翌年まで引き延ばすとバックミラーを見て投資をすることも可能になるのです。 【ポイント2】

近い将来、投資テーマとなりうるものは?

もちろん、投資テーマは季節要因だけではありません。より大きなリターンを得たいのであれば「国策」に注目しなければいけません。国策はほぼ約束された未来。ある程度確かな未来は、中期的に期待できる投資テーマとして考えることができるのです。

例えば少子高齢化対策。それが現実の問題として現れているのが医療費です。

厚生労働省が7月26日公表した2005年度の概算医療費は前年度比3.1%増の32兆4,000億円と過去最高を更新しています。前年度と比べて増えた9,700億円のうち、75%を70歳以上の医療費の増加分が占めており、高齢化による医療費の膨張傾向が改めて浮き彫りになった格好です。このまま医療費は拡大の一途をたどり、20年後には2倍の60兆円にまで膨らむ可能性があります。

となれば、医療費の削減は喫緊の課題、ということは誰の目にも明らかでしょう。医療費の削減、という国策に合致した会社であれば投資テーマとみなすことができる、というわけです。

この投資テーマに合致するのが、例えば後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカー。後発医薬品とは特許切れ成分を使う割安な医薬品のこと。具体的には、沢井製薬(4555)や東和薬品(4553)など後発医薬品の開発に力を入れている企業は、医療費削減という国策に合致しており、今後事業を拡大していくことが予想できます。

このように、国が向かう方向である「国策」をベースに探していくと、多くの投資テーマを見つけることができます。ニュースを見るときに、「これは国策か?」という視点を持つことが重要です。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
もし、キャピタルゲインを目的に投資するのであれば、「安く買って高く売る」が基本です。夏に値上がりする銘柄を夏になってから購入しては意味がありません。夏が来て値上がりする前に、遅くとも春ごろまでには「仕込む」作業が必要です。
しかし、天候というのは不確実なもの。猛暑と予想されたからといって、確実に猛暑になるとは限りません。あらかじめ仕込むということは、そうした不確実性をはらんでいます。季節要因は有効な投資テーマですが、その不確実性をできるだけ排除するほかの方法も見つけておくことが大切です。
【ポイント2】
季節要因を軽視して、せっかくの投資チャンスを逃してしまうのはもったいない。だからといって、夏と言えばビール株、というような画一的な考えを持っても良くないと思います。投資に臨むに当たって武器はやっぱり多いほうが安心です。季節要因を投資テーマにすえるというのは武器になりえるでしょう。その上で、単純な季節要因に何かもうひとつアイデアを加えることが重要です。本文で紹介した「バックミラーを見る」こともその1つです。「鬼に金棒」の発想で投資に臨むことで不確実性が排除され、確度の高い投資が行えます。
【ポイント3】
国策の多くは、新聞1面で取り上げられます。最近では、6月22日に日経新聞1面に掲載された「経済成長戦略大綱」です。人口減少が進む中で、日本経済が2%超の実質成長を維持するための青写真として政府が発表しているわけですから、「事業内容が、大綱に記載されている施策に合致していれば、そのセクターは2%以上の成長が見込まれて将来有望だ」と気づくことができるわけです。
他にも、「郵政民営化」、「映像検索」、「放送と通信の融合」など国策は目白押し。合致する会社を見つけた後は投資タイミングを伺うことに力を注げばいいのです。新興市場の株価下落等、昨年に比べると有望な会社をずいぶん割安に投資できるタイミングが来ています。今回取り上げたテーマ以外に、あなただけのオリジナル投資テーマを見つけてください。

上場している企業は全部で3,700社以上あります。この中から魅力的な会社を見つけようと思っても、何から探せばよいか分かりませんよね。企業から探すことももちろん重要ですが、投資テーマを見つけ、そして魅力的な産業、その産業で頑張っている企業を応援するという方法もあるのです。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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