リコール、PS3発売延期…いつまで続くソニーの“迷走”

ソニー製ノートPC用バッテリで発火、世界中で回収

8月16日、パソコン世界最大手のデルが、自社のノートパソコンに搭載しているソニー(6758)製リチウムイオン電池が過熱し発火する可能性があるとして410万個を自主回収する発表しました。

これは、ゴールドマン・サックス証券の試算では、総額394億円にのぼるパソコン関連製品では最大規模のリコール(回収・無料修理)です。また、モルガン・スタンレー証券は、ソニーが全額負担で全てを回収した場合の費用総額は「300億から500億になる可能性がある」と指摘しています。

その後、デルなど海外メーカーのみならず、日本のメーカーにも自主回収の動きが広がり、ソニーにとっては、直接的な費用負担に加え、信用を傷つける非常に重大な問題に発展しました。

このところ、電池の自主回収以外にも、ソニーの「モノづくりの力」を疑問視せざるを得ない出来事が相次いでいます。

例えば、9月には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が、「プレイステーション3(PS3)」の欧州での発売を、06年11月17日から07年3月上旬に延期すると発表しています。理由は、親会社であるソニーの部品量産に遅れが生じたためです。

SCEの久多良木健社長は発売延期について、「欧州のファンやソフト会社に申し訳ない」と謝罪した上で、「本当はソニー担当者が(記者会見に)来るべきだが来ていない」と不満をにじませました。そして、「ソニーの物作りの力が落ちているのではと問われれば、今日の時点ではその通りと言うしかない」と述べています。

株式市場もソニーに厳しい評価を下しています。リコールが発覚した8月16日と10月6日の終値を比べると、ライバルである松下電器産業(6752)やシャープ(6753)が値を保っているのに対し、ソニーは5,150円から4,490円と実に13%もの下落しています。同業の中でも明確に差が現れてしまっているのです。

ソニーにとっては、「ソニーショックからの復活」のかかった大切な時期でしたので、投資家の失望も大きかったのでしょう。【ポイント1】

迷走続く「ソニーショック」以降

03年4月25日、前日にソニーが発表した「1−3月期は連結最終赤字、04年3月期は大幅減益見通し」とのコメントに、株式市場はパニックを起こし、ソニーはストップ安、日経平均株価は7,700円割れとなってしまいました。いわゆる「ソニーショック」です。

その後も、05年1月に再び業績の大幅下方修正を発表するなど、ソニーは“迷走”を続けました。株価もソニーの迷走ぶりを懸念し、03年4月の下方修正発表後から05年1月までの期間、日経平均株価が48%もの上昇を見せたのに対し、19%の上昇にとどまってしまったのです。

そんな苦境を脱却するため、ソニーは05年3月に大胆な刷新人事を発表しました。出井伸之会長兼グループCEO(最高経営責任者、当時)の後任に、同社の米国代表ハワード・ストリンガー氏が就任、同社初の外国人CEOとなることを発表したのです。出井氏は実質的な更迭。ソニーのような日本を代表するメーカーのトップに外国人が就くことも異例中の異例です。

私は、この発表にソニーの「改革への本気度」を感じ、05年9月10日号『週刊ダイヤモンド』で、今後10年の有望銘柄としてソニーを取り上げました。

その後、ソニー株は06年1月27日に発表した業績の上方修正を受け急騰。値上がり率は14%を超え、東京証券取引所第一部でトップとなりました。1月27日の終値は5,800円。9月10日号で記載した株価と比べると、3ヶ月強で実に55%も上昇したのです。

「この流れのまま復活するのでは」と期待が集まるタイミングでの今回の電池の自主回収、そしてPS3の発売延期です。「ソニーの迷走はまだ続くのか」と不安を抱かざるを得ません。【ポイント2】

予想できない株価の動きに対するリスク管理

このソニーの例を見ると、株価は自分が予想したとおり動くとは限らないことがよく分かります。ましてや、リコールなどをあらかじめ予想しておくなど不可能です。

ではそのリスクをどう管理したらよいのでしょうか

ソニーがリコールで値を下げた期間、他の電機株はどういった値動きをしていたのか。上記の通り、ソニーは8月16日から10月6日の間に5,150円から4,490円に値を下げたのに対して、松下電器は2,460円から2,495円に、シャープは2,015円から2.025円にそれぞれ値上がりしているのです。

これら電機株をまとめて保有していたら、ソニー株の下落による損をある程度は吸収できていたでしょう。つまり、複数株を保有することは、リスク軽減に有効なのです。

とはいえ、複数の銘柄を運用するのには手間がかかります。また、ソニーを含む電機銘柄の場合、売買単位額が大きく、相当程度の資金が用意できなければ分散投資は困難です。そうであれば、ETFへの投資を検討してみてもよいでしょう。

ETFとは、その価格がTOPIXや日経平均などの主な株価指数に連動するようにつくられ、上場されている商品のことです。ソニーを含む電機指数に連動する「電機ETF」というものがあります。現在では野村アセットマネジメントと大和投資信託委託が運用している商品を買うことができます。

これであれば、小額で購入できると同時に、幅広く銘柄を保有しているのと同程度のリスク低減効果を自動的に得ることができます。【ポイント3】

電機ETFの値動きを見てみましょう。途中までソニーと同様の値動きとなっていますが、不祥事発覚後もETFはしっかりと値を保っていることに気づくでしょう。(3ヶ月ベース)

しかも、好調といわれる松下電器産業(6753)と中長期でみればほとんど変わらない動きになっているのです。

個別銘柄に投資し、ハイリスク・ハイリターンを狙うのも株式投資の醍醐味かもしれません。しかし、パイオニアも日本ビクターも、もっと言えばソニーも松下も東芝などもすべてにパッケージとして投資し、地味ではありますが、しっかりとしたリターンが狙えるETFという投資法があるということは知っておくべきでしょう。

ETFが力を発揮する理由は書籍『投資の木の育て方』に詳細に記載いたしました。ご興味がある方はぜひこちらをご覧いただき、投資の幅を広げていただきたいと思います。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
悪いニュースが飛び出し株価が下落するタイミングでは、追加投資は避けたほうがいいです。ついつい自分が買っていた会社が、株価が下落してしまうと、追加投資をしてしまいがちですが、それではいけません。
一方で、常識的に考えて株価の下落要因になると思われるニュースが出たにもかかわらず、株価がそれほど下がらない、もしくは上昇していたら、それは株価が悪材料を全て織り込んでいるということかもしれません。それこそ投資の絶好のタイミングです。
しかし、そのタイミングを見極めることは決して簡単なことではありません。何も不祥事を起こした企業に投資をする必要はない、投資対象は他にも山のようにある、ということを忘れないようにしましょう。
【ポイント2】
ソニーはもともと「モノづくり」で力を発揮してきた会社ですが、プレステの成功を契機に、ソフトで稼ぐ会社になろうとしています。ゲームビジネスの場合、赤字覚悟でハードを普及させた後、ソフトの販売に力を入れ回収、儲けを出すケースが多くあります。ソニーが発売前にPS3の値下げを発表したのも、まずはハードを普及させることが肝心だと考えた結果なのでしょう。
その戦略自体は間違いではありません。事実、プレステの普及とその後のソフトの好調な売れ行きはソニーに大きな利益をもたらしました。
一方で、ソフトで稼ぐことを重視するあまり、肝心のモノづくりがおろそかになってはいなかったでしょうか?私は出井氏の事実上の更迭は、ソニーがモノづくり復権に本気で取り組んでいることの表れだと考えています。今後は、それをいかに実行に移していけるのかを見極める必要があります。
【ポイント3】
「何を買えばいいでしょうか?」という質問を多く受けます。でも、個別銘柄投資は本来は上級者向け。今回のソニーのように、1社だけだと多くのニュースなどと付き合わなければいけません。良い話であればいいですが、悪い話ともしっかりと付き合っていくことは「ストレス」になります。こうしたストレスと向き合う覚悟があり、さらに大きなリターンを得るためにリスクをとる覚悟が必要です。
その上で、会社の分析のみならず、売買タイミングもしっかりと図っていくからこそ高いリターンが得られるのだと思います。個別株投資は有料メールマガジン『なぜ、この会社の株を買いたいのか?』で毎週1社お伝えしています。ご興味のある方は下記からお申し込みいただければと思います。

ソニーは私が好きな会社の1社。だからこそ、頑張って欲しいと思います。ただし、株価は別。好きな会社だからずっと持っているとか、嫌いな会社だから買わないというのは間違っています。分析と売買は別個のものとして考えなければ、リターンを得る可能性はグンと減ってしまいますので注意してください。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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