変わる株主総会。個人投資家がなすべきことは?

変わる株主総会の主役

6月下旬は株主総会が集中する時期です。新聞などでも株主総会に関するニュースをよく見かけます。特に今年は、色々と話題が盛りだくさんです。

これまでこのコーナーでお伝えした企業のソニー(6758、21日)、日本航空(9205、26日)、TBS(9401、28日)や、投資ファンドとの攻防が続くブルドックソース(2804、24日)、中部電力(9502、27日)など注目の企業の株主総会も目前に迫っています。

こんなにも株主総会が盛り上がるとは、時代が変わったのだと感じずにはいられません。

かつて株主総会の主役は総会屋でした。野次を飛ばして総会の進行を妨害しようとする総会屋に対して、会社側も社員株主の「異議なし!」といった大声援をバックに議長役の社長が強引に議事を整理、30分で閉会に持ち込む。そんなことが現実としてまかり通っていたのです。

また、総会屋が出席しにくいように開催日を特定の日に集中させることや、出席者から何も質問が出ないで終わる「シャンシャン総会」も多くありました。

株主総会は会社の最高意思決定機関です。にもかかわらず、従来はそれほど大きな意味をなしていなかったのです。

しかし、総会屋に対する利益供与を厳罰化する法制(会社法120条、970条)が功を奏し、また会社側も毅然とした態度を取るようになり、総会屋は徐々に勢いをなくしていきました。

それに代わって、近年の株主総会の主役になったのが「投資ファンド」と「個人投資家」なのです。【ポイント1】

存在感を増す投資ファンド

最近、特に注目を集めているのが、株式を大量取得した上で企業価値向上に向けた経営改革を働きかける「アクティビスト」と呼ばれる投資ファンドです。米系のスティール・パートナーズ・ジャパン(以下スティール)はその典型例でしょう。

スティールは、サッポロホールディングス(2501)の筆頭株主として、同社が導入した事前警告方の買収防衛策に反対する委任状勧誘を行いました。

実際に3月に開かれた総会では、スティールの株主提案は否決され、買収防止策が承認されましたが、総会において大きな存在感を示したことは間違いありません。

英系投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメントは、中部電力やJパワー(電源開発、9513)に増配を要求する株主提案を行っています。

また、株主総会が企業対企業の対決の場になっているケースもあります。

TBS株の19.86%を保有する楽天(4755)はTBSに対して、三木谷浩史楽天社長を含む2人の取締役選任や買収防衛策の導入用件を定款に盛り込むことを求める株主提案を行っています。対するTBSは徹底抗戦の構えで、株主総会を前に、法廷を舞台とした対決に発展しました。【ポイント2】

※TBSと楽天の関係についてはバックナンバー『ついに全面対決か。楽天の“仕掛け”でTBSはどう動く?』をご覧ください。

個人投資家は何をすべきか

株主総会を通じて会社側に要求を提示できるのは、何も株式を大量取得した投資ファンドや企業だけではありません。個人投資家にとっても、株主総会は自らが株式を保有する企業の経営者と直接対じできる唯一の機会といっても過言ではないのです。

また、経営努力により株価が上がっているのであれば、その経営者にエールを送るのもよいでしょう。

株主総会は、個人投資家にとっても非常に貴重な機会です。だからこそ、企業側には株主を尊重する観点から、総会をよりよいものにする努力が求められています。開催日を分散し複数の総会に参加しやすくしたり、インターネットで中継するなどは、その一環といえるでしょう。【ポイント3】

一方で、個人投資家も株主としての責任を再認識する必要があるかもしれません。「自分たちの意思が会社の将来を左右する」ぐらいの心意気が必要です。

例えば、小売業の場合。自分が利用している店舗の店員の態度が悪かったら。株主総会の場で、「店舗の対応が悪い」と言うのではなく、「御社にとって悪いニュースはどのような仕組みで社長に届くようになっているのか?」など、会社の組織にまで踏み込んだ質問にしたほうがよいでしょう。「対応が悪い」だけでは株主のガス抜きと取られかねません。

「会社は株主のもの」です。しかし、それを曲解している個人投資家も増えています。株主だからといって特別扱いを求めるのはただのわがまま、論外です。

株主総会は年に1回の貴重な機会です。それをより有意義なものにするために、それぞれの投資家が、株主としてのレベルを上げていく必要があるといえます。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
株主の目の前にいるのは議長である社長です。しかし、その裏では多くのスタッフが社長をサポートしています。
突発的な質問があり、社長が回答に窮してしまうと、それだけで信頼が損なわれてしまいます。そのため、後方にいるスタッフがすばやく回答を送るためのシステムなどが開発され、ヒット商品にもなっているとか。株主総会の裏側もIT化により急速に変化しているのです。
【ポイント2】
経営に大きなインパクトを与える議題があれば、当然総会の所要時間も長くなるでしょう。96年には26分であった平均所要時間が昨年06年は52分に。ちなみに、昨年の最長は神戸製鋼所(5406)の5時間27分でした。今年の1位はどの企業になるでしょうか?
【ポイント3】
最大の買収防衛策は、応援してくれる投資家をできるだけ多く確保することです。そのとき、主役となるのは個人投資家です。
そのため、たとえ新日鉄(5401)ほどの大企業であっても、個人投資家重視の取り組みを行っています。同社は個人株主向けに君津製鉄所の工場見学会を16回開催、参加した株主は4,000人強にのぼります。各企業の姿勢と株価は色々な意味で関係しているといえるます。

ファンドマネジャー、アナリストとして多くの会社を訪問し、直接経営者に質問できる仕事をさせていただいていることに、改めて感謝をしています。私自身も個人投資家の代表として、経営を変えるような投資をしているのかと振り返りながら、自分を律したいと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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