ライバル東芝が撤退。次世代DVD規格争い勝利でソニーの今後は?
東芝、次世代DVDから撤退
次世代DVDの規格争いに、ついに決着がついたようです。東芝(6502)が2月19日、「HD−DVD」方式の開発・生産を全面停止すると発表しました。
次世代DVDに関しては、東芝を中心としたHD陣営と、ソニー(6758)、松下(6752)などの「ブルーレイ・ディスク(BD)」陣営が規格競争を繰り広げていました。
両規格は互換性がないため、互いにソフトの供給元である映画大手の囲い込み合戦を続けていましたが、米ワーナー・ブラザースが1月にBD単独支援を表明。米小売大手ウォルマートも2月15日にBDのみを取り扱うことを発表するなど、「BDに一本化」の流れが明確になっていました。
また販売面でも、東芝は今年に入りHD方式のプレイヤーを大幅値下げしたにもかかわらず、米国市場でのシェアは1割未満に落ち込んでいました。日本でも昨年の年末商戦でのHDのシェアは約1割。東芝の08年3月期同事業は、数百億円規模の赤字になる見通しです。
こうした厳しい状況を受け、東芝はレコーダー(録画再生機)の販売を中止し、プレイヤー(再生専用機)などに特化する、販売不振の日米から撤退し欧州市場に専念するなどの案を検討していたといいます。しかし、ワーナーという映画大手が敵陣営についたことで、HD方式のソフトの普及が見込めないと判断し、全面撤退を決めたのでしょう。【ポイント1】
損失数百億?規格争いのツケ
今回の撤退により、数百億円の損失が発生するとも報道されており、東芝にとっては大きな痛手です。もちろん、既にHD方式を購入している方にとっても痛手ですし、日本企業全体を考えた際にも、非常に残念な結果だといえます。
私は毎日平日に配信しているメールマガジン『投資脳のつくり方』の中で、05年、両陣営が規格を一本化できないまま製品を発売する見通しとの報道を受け、以下のように書きました。
大変残念な結果。これによって、日本のデジタル家電は、今後後退してしまう可能性がある。次世代DVDの規格統一を探ってきた東芝とソニーの両陣営が、方式を一本化できないまま商品を発売する見通しとなった。デジタル時代における重要なキーワードは、「標準化」。「規格の標準化が行われた後、各社の商品で勝負をする」という流れでならなければ、グローバル企業との競争に勝つことは難しい。
こうした規格争いがいかに不毛なのか、我々はかつての録画機でのVHSとベータの争いでよく知っているはずです。
また、日本企業が勝ち組として高い収益をあげている分野の成功事例を見ても、規格争いが無駄なことがよく分かります。
実は、当初デジタルカメラの分野でも、富士写真フイルム(現在、富士フイルムホールディングスに移行、4901)とキヤノン(7751)が規格争いを演じていました。しかし、両者が歩み寄ったことで世界標準を日本企業が握り、日本企業各社が高い収益を稼ぎ出しているのです。
規格を統一し、標準化することこそがビジネスにおいて非常に重要なのです。そのことを過去の経験から学べたはずなのにと思うと、今回の次世代DVD規格を巡る争いは、より残念に思えてなりません。【ポイント2】
BD勝利でソニーは?
確かに、こうした規格争いは残念です。しかし、東芝のHD撤退が、ソニーなどBD陣営にポジティブな影響をもたらすことも事実です。
新聞報道などでは、BD製品が広く普及したとしても、価格の下落により収益への貢献は限られるのではないかとの意見もみられます。しかし、ソニーの場合は、ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」にBDが搭載されていることが非常に重要です。
PS3は、発売後1年が経過していますが、当初予想よりも普及ペースが遅いことが指摘されています。昨年度の決算でも、ソニーはゲーム部門で2,000億円を超える赤字を計上しています。
※ソニーの昨年度決算についてはバックナンバー『大幅減益も株価は上昇。ソニーの今後を占うキーワードとは?』をご覧ください。
ただ、PS3の前機種であるプレイステーション2(PS2)が普及した要因として、DVD機能が搭載されてい点が挙げられていることを忘れてはいけません。
PS2は00年に発売され、瞬く間に大ヒットとなりました。もちろんゲーム機としての性能、ソフトの充実が一番のヒットの要因といえます。
しかし、DVD−ROMドライブ搭載で、既存プレイヤーに比べて格安の4万円以下という価格設定は、DVDの普及・プレイヤーの低価格化に貢献しただけでなく、逆に「プレイヤーを買うなら、値段も安くてゲームもできるPS2を買おう」という需要を掘り起こしたこと事実です。
東芝のHD撤退により、BDが普及期に入れば、同様のケースがPS3にも当
てはまる可能性が出てきます。ゲーム部門の黒字化のみならず、黒字額の増大
により、ソニー全体の業績を好転させる可能性もあるのです。【ポイント3】
「標準」を握ることがいかに大切か。そのことを改めて考えずにはいられません。
- 【ポイント1】
- 株式市場は、東芝の決断を好意的に受け止めました。18日の東芝の株価は一時前週末より53円(6.8%)高の837円まで上げました。同時に明らかになった半導体への積極投資とあわせ、選択と集中を実行に移す経営判断を、投資家はポジティブに捉えたということになります。
- 【ポイント2】
- 規格が標準化され、その後、企業間で特徴をアピールしていく競争により、厳しい中でも収益を狙うことができるようになります。ただ、規格が標準化されていても、例えば携帯電話のように各キャリア間で仕様が異なると、やはり日本の携帯電話製造メーカーは収益を出すことが難しいといえます。
- 【ポイント3】
- BDの映像を見てしまうと、アナログ放送時代の映像とまったく異なっていることに気づくでしょう。人間は弱いもので、一度生活水準を上げてしまうと、なかなか昔に戻れないものです。その点からも、標準化によるBDの普及に関しては、期待を持って見つめることができるでしょう。
2年半前の「両陣営、見切り発車での製品発売」の記事は、当時、本当に残念な思いで読みました。そして、紆余曲折はあったものの、結果的にはソニー・松下を中心とする技術が標準となる見込みです。ソニーという会社を見た場合は、新しい技術を普及させるという意味で、ソニーらしさが戻ってきているように思います。元気がないと言われて久しい日本ですが、モノづくりという観点から、日本にもう少し期待を持ってもいいのではないか、と思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。