『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

銀行株は売りか?買いか?

銀行中心の日本経済をつくったのは米国

かつて、日本経済の中心は何かといわれれば、迷わず「銀行!」であった。なぜなら、銀行には優秀な人材とカネが集められ、カネを借りに来る企業に対し、カネだけではなく、ヒトと知恵も出してくれたからだ。


こうした銀行が持つパワーの源はといえば、カネを借りる側が差しだす土地というモノだった。このモノの価値がどんどん上がれば上がるほど、カネは銀行からあふれ出し、企業へと降り注いでいく。いわゆる「間接金融システム」である。


未だに日本の有名な経済学者たちが「1940年体制論」などとデタラメを言っているので、はっきりさせたいのだが、こうした銀行中心の経済システムが出来上がったのは戦後のことだ。もっと率直に言えば、このGHQ、すなわち米軍がこうしたシステムに再編したのである。


それまでの戦前はというと、「株」は今の日本よりもはるかに普通に売買されているものだった。しかも、「株」だけではなく、生糸など「商品(コモディティー)」についても、もっと気軽に取引されていた。富裕なサラリーマンたちは「株」を自然と買い、その配当で喜び、子供たちにその「株」を継いでいった。これを壊したのは、他ならぬ米国だったのである。


米国がなぜそうしたのかといえば、冷戦下において、日本に急いで経済復興してもらう必要があったからだ。「株」でチマチマと集めるよりも「銀行借り入れ」で瞬く間に資金が流れた方が経済はすぐさま立ち直る。ひいては社会は安定化し、東側社会に日本が転がることもなくなる。そう米国は考えたのである。

地方進出する都銀の狙いとは?

しかし、そんな日本の銀行は、1990年代になると、にわかにおかしくなってくる。地価が下落し、担保にしていた「土地」が安くなったので、貸し付けていたカネが不良債権となったのだ。それでもこれを「飛ばし」、巧みに隠していたが、会計基準の国際化やらBIS規制やらで欧米勢に丸めこまれ、結局はボロボロの醜態をさらすことになる。ここで、銀行は一気に丸裸にされた。


その後、2005年頃より、今度はどういうわけか銀行セクター全体の株価が上がり始めた。「構造改革の成果だ!」と豪語してやまない小泉総理(当時)。翌年も銀行株は上がり続け、平均株価もそれに引きずられるようにあがっていく。


しかし、2007年に入ると状態は一変。みるみる間に急落をはじめ、アッという間に2005年後半の水準と同じになってしまった。しかもそこにきて、米国発「サブプライム問題」の勃発だ。リスク資産に手を出しにくくなっている地銀はともかく、2005年からの「上昇機運」に調子に乗って海外での運用に手を出してきた大手銀行は、軒並みひどいことになっている。


ところが、そんな中、奇妙なニュースが飛び出した。「三菱東京UFJ銀、長野に進出・都銀では53年ぶり」(9月22日付日本経済新聞(長野版))という記事である。銀行セクター全体が低迷している中、なぜ今、日本の地方進出なのか?そんな余裕は一体どこにあるというのか?しかも、政府統計によれば下から数えた方が早い景気が続く長野になぜ進出するというのか?なぞは深まるばかりである。

2007年秋、金融システムがガラリと変わる

福岡(11月10日)・広島(11月11日)で開催する情勢分析セミナーでは、このあたりの事情について、私なりの考えをじっくりと述べ、聴衆の方々と一緒に考えてみたいと思う。


簡単にいえば、銀行たちのこうした動きは、この秋、日本だけではなく、世界中で金融システムが大きく変わることと深いつながりがある。「複雑怪奇な金融手段」から、「単純明快な資金調達」へとそこでの基調は変わっていく。だからこそ、前者の立役者であるヘッジファンドたちは叩かれ、後者の中心となるモノの世界では宝庫となる中南米(コーヒー、サトウキビなど)、そしてアフリカ(金、ダイヤモンドなど)がますます前面に出てくるというわけだ。


かつてのような勢いではないにせよ、そうした中で日本の各地方における中小企業が資金調達を行う際、より伝統的な「銀行からの借り入れ」を選択することも多くなることだろう。なぜなら、「モノ」=「不動産」という分かりやすいものを担保にした金銭の貸し借りがそこでは行われるからだ。となると、当然、日本の不動産マーケットがどうなるかも見えてくる。そして、ふと見ると日本の不動産株は必ずしも絶好調とはいえない状況にある…。


多くの外資勢たちが、2008年からふたたび日本に不動産ファンドを設定することを明らかにし、富裕層を対象としたリテール中心を謳う外資系金融機関がこの秋、上陸してきたことなども、すべてこれに関連している。見えないのは、「改革だ」「いや、格差税制だ」と叫んでいる旧タイプの日本人だけである。こうして、中国バブル第一次崩壊後の世界が、徐々に見えてきている。あなたには、見えるだろうか?

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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