投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
狙われる北海道を買い取るのはどの国か?
「洞爺湖サミット」開催決定をめぐるナゾ
来年の7月7日から9日に、北海道・洞爺湖でG8サミット(先進国首脳会合)が開催される。「構造改革」が叫ばれていたはずの経済の上昇気流から取り残され、かえって「格差社会」が選挙のキーワードになりつつとも言われる北海道。そこに突然、世界中から注目が集まるというのだから、地元の発展にとっては願ってもないチャンスだろう。
そもそもサミット開催地の決定は「政治的」だ。世界経済に関するあらゆる問題について、首脳同士が話し合う機会をつくるべく始まったサミットではあるが、最近ではその開催地に多額の公共投資が行われることも話題になっている。
日本で前回行われたのは沖縄である。実は私はその時、森総理大臣(当時)のドイツ語通訳としてサミット会場にいた。できたばかりの真新しい施設や道路に、サミットが与える経済的影響力を感じたものだ。
しかし、あらためて考えてみると、「なぜ、北海道」なのかという疑問は残る。たとえば2000年の沖縄サミットを決めたのは故・小渕総理(当時)であった。右腕となって取り仕切っていたのが鈴木宗男内閣官房副長官(当時)だ。その鈴木副長官は北海道出身。永田町で声の大きい鈴木副長官がいたにもかかわらず、それでもあの時、北海道でのサミット開催は決まらなかった。
ところが、今回はこれまでそれほど北海道にはこだわりがあったようには思えない安倍総理の下で、「北海道・洞爺湖サミット」が決定された。政治とは、実に摩訶不思議なものである。
「国営ファンド」で世界中を買いあさるロシア
しかしこの「サミット開催地決定をめぐるナゾ」も、世界のマーケットで今、何が生じているのかを知れば、意外に解けてきたりもする。
英国発祥のフィナンシャル・タイムズのドイツ発行版は、4月24日に「ロシアが世界中で買い物ツアーに走る」と題する記事を掲載した。何と、ロシアが国営の買収ファンドを邦貨にして2兆9千億円もつぎ込んで立ち上げることにしたというのだ。
その原資はここのところの原油高で大儲けしたロシアの石油関連企業たちが支払った税金。98年に深刻な通貨危機に陥ったロシアは、この税金を貯めて、「安定化基金」をつくってきたが、その金額があまりにも大きくなったので買収ファンドをつくろうというわけだ。
問題はこのファンドの買収ターゲットにある。この記事によれば、そのターゲットには石油・ガス関連企業は言うに及ばず、他国の「不動産」も含まれるのだという。すると、どうしても思い出さざるを得ないのが、戦後以来の北海道における「米ロ対立」の歴史なのである。
米ロに狙われる北海道
7月7日に札幌で開催する「原田武夫国際戦略情報研究所」主催の無料学習セミナーを機会に、このあたりの事情をじっくりと現地で見てきたいと思っているのだが、ロシアに一番近い北海道は、帝政ロシア、さらには旧ソ連時代よりロシアと何かと交わってきた地域である。
とりわけ第2次世界大戦後は、冷戦対立の中で安全保障上、「砦」となってきたのが北海道だ。その北海道の「不動産」、あるいはインフラへの投資をロシアが国家戦略上、考えないわけがない。
一方、「青年よ、大志を抱け」のクラークに象徴されるとおり、米国としても北海道は明治以来、大きな関心を持ってきた地方だ。また、戦後の歴史をひも解くと、ソ連のスターリンが北海道半分の占領を望み、米国のトルーマンが断った経緯がある。さらには、GHQによる占領下でソ連のスパイが北海道に逃げ込み、大捕り物になったことも何度かある。今でも、札幌にいる米国総領事は活発な活動を展開しているとも聞く。ロシアに対する米国の警戒心は絶えることがないのだろう。
そのロシアで来年3月に大統領選挙が行われる。選挙が行われる時、大量の資金が必要になるのはどの国でも一緒だ。
だからこそ、ロシアの「国営ファンド」はますます景気が良くなり、株高となることが予想される日本マーケットへ一層の買いを入れてくるはずだ(一説には来年の春がピークとされる)。
そしてその時、日本進出の「入口」となるのが、彼らにすれば慣れ親しんだ北海道なのだろう。たいていの日本人が気付くこともなく、実は米ロ間で今、最も“熱い”のが北海道なのである。
そのことを密かに気付いた安倍総理が、北海道・洞爺湖でのサミット開催を最後に「英断」したのだとすれば、納得できなくもない。―――今、金融資本主義化した米ロ両大国から狙われているのは、北海道なのだ。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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