ミクシィ上場でますます過熱〜「良いIPO」の見分け方とは?

ミクシィ上場、時価総額は2000億円!

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)国内最大手のミクシィ(2121)が 2006年9月14日、東証マザーズに新規上場(IPO)しました。上場日当日は買い注文が殺到し売買が成立せず、取引終了時の気配値は公募価格(155万円)の約2倍の315万円となりました。

翌15日は、午前中に公募価格を90%上回る初値295万円を付けた後、利益確定売りに押され、一時256万円まで下げてしまいました。しかしその後は短期資金が流入し、初値を17万円上回る312万円で取引を終えました。

現在のミクシィの株価はこちら

こうした荒い値動きに、「ミクシィ株は投機的な短期資金が入り、一般の投資家には手掛けにくい」(国内証券)との声も聞かれ始めています。

22日の終値301万円で計算すると、同社の時価総額は2,122億円。07年3月期の予想税引き利益が9億9,000万円ですので、この数値を基準に計算した成長期待度を示すPER(株価収益率)は214倍です。

214倍というのは、分かりやすくいえば、214年後に獲得できる利益をすでに株価は織り込んでいるという意味。ネット企業の代表銘柄ヤフー(4689)も上場直後に170倍という高い数値となりましたが、それを大幅に上回っています。それだけ世間がミクシィという会社に注目しているということなのでしょう。

ミクシィはもともとIT系求人サイトとしてスタートしました。社長の笠原健治氏が、東大在学中の97年に「Find Job!」を立ち上げ、00年に株式会社化、04年にSNSサービスサイト「mixi」の運営を開始しました。

SNSはインターネット上での人と人とのつながり作りを支援する仕組みのこと。mixiは、すでに登録した会員からの招待がなければ参加できない「招待制」を取っています。

総務省の発表によると、06年3月末時点での日本におけるSNS利用者数は700万人強で、前年の6.5倍と大きく伸びました。その伸びの大部分を占めているのがmixiの会員数だといわれています。【ポイント1】

過熱感を指摘する声に、笠原社長は「市場からの評価なので真摯に受け止めたい。ネット経営者の世代論はあまり意識していないが、若い世代の代表として評価してもらっている面があるかもしれない」と答えています。

IPO株が高騰するカラクリ

ミクシィのほかにも、9月23日マザーズに上場した占い情報配信のメディア工房(3815)や、大証ヘラクレスに上場した外食向け管理システムのアルファクス・フード・システム(3814)がともに初値に対して値幅制限の上限まで買われるなど、IPO銘柄の高騰が目立ちます。

IPOは「宝くじより当たるゲーム」という雰囲気が、個人投資家に根強くあるようです。IPOには1千万人超の個人投資家のうち、ざっと10万人が投資しているといわれています。雑誌等でも大きな特集が組まれるため、魅力を感じる方も多いと思います。また、ライブドアショックなどで新興市場が厳しい状況にある中でも、「確かな」リターンをあげてきた実績も買われている要因といえるでしょう。

ではなぜ、IPO株の株価は上昇するのでしょうか。

新規上場する企業は、主幹事証券会社との間で、業績や類似企業の株価などを比較検討して適正価格を出しますが、公募価格はそれよりも20%程度低く設定されているのが通常です。つまり、公募価格に対して、20%程度上昇するのは、ある意味、理にかなったことです。

また、当然ですがIPO株は上場初日にならなければ株式市場から購入できません。一方で、大株主などは「ロックアップ」と呼ばれる「公開後の一定期間、市場で持株を売却しない」契約を公開前に交わすことが多く、流通している株数が少ない状態になるのが通常です。そのため、どうしても「買い」が「売り」よりも多い状態になるのです。

さらにミクシィのように話題性もあり、将来の事業展開に期待が持てる銘柄であれば、株価が高騰するのも当然です。【ポイント2】

「良いIPO株」を見分ける3つのポイント

確かに、IPOは上場前に当選すれば、リターンを得られる可能性が高いです。しかし、中にはIPOだったら何でもよいといわんばかりに、申し込みをしている人もいると聞きます。

しかし、02年に新興企業向け3市場に上場した100社を対象に調べたところ、67社の株価が公募・売り出し価格を下回っていました。映像制作大手の東北新社(2329、公募価格に対する初値の騰落率−37%)など、名の知れた銘柄もその中に含まれています。

もちろん、魅力的な会社があるのも事実。たとえば、世界のソニー(6758)であっても昔は新規公開企業だったわけです。現在IPOした会社のなかから、ソニーのように大きく成長を遂げる会社が現れるかもしれません。

では、「良いIPO株」とはどのようなもなのでしょう。私は以下の3点に注目しています。

1)資金調達額が少ない
そもそもIPOは、自社の株式を株式市場において売買可能にすることで、事業運営または事業拡大のための資金を調達することがメインの目的と言えるでしょう。この資金調達額が少ない会社は、株式市場に出回る株が少ないということです。希少価値があるため、株価も上昇しやすいのです。

株価は人気投票といわれることがあると耳にしたことがおありだと思います。買いたいにもかかわらず、実際に買うことができる株数が少ないと、人気が吊り上がっていきます。そのため、資金調達額が少ないと株価は人気化し、株価が上昇するケースが多いのです。

2)ロックアップが設定されている
ロックアップとは、公開前に大株主らインサイダーが一定期間、市場で株を売却しないと契約することです。これは、公開直後に高値がついた時点で、大株主が利益確定のため大量に売却し、極端な値動きをすることを防ぐ目的の制度です。ロックアップが設定されていれば、売り圧力、つまり値下がりの懸念は減ります。

3)ベンチャーキャピタルの保有割合が低い
ベンチャーキャピタルとは、投資家から募った資金で未上場企業の株式を取得し、その企業が上場した際のキャピタルゲインを得ることを目的とした企業です。彼らの仕事は、上場後に高値で売り抜けることです。ですので、ベンチャーキャピタルの保有割合が高い銘柄は、上場後すぐに大量の売りが出る傾向があります。

上記2)のロックアップが設定されている場合は、上場直後の売り圧力は弱まりますが、最終的には株を売却し収益を上げるので、将来の売り圧力であることには変わりありません。

当然ですが、上記3つに加えて、その会社の事業内容などを詳しく調べることが必要なのはいうまでもありません。これはIPOに限らず、投資をする上では必須です。

IPOは確かに儲かる可能性が高いといえます。しかし「絶対」ではありません。そのことを肝に銘じ、しっかりと銘柄を見極めましょう。【ポイント3】

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
ミクシィの国内の競合他社といえば、グリーが挙げられます。しかし、グリーの登録利用者数が06年1月に30万人を突破したのに対し、ミクシィの登録利用者数は同時期に約300万人に達し、06年9月現在では570万人とライバルに圧倒的な差をつけています。また、ライブドアや楽天(4755)などもSNSサービスを提供しており、ポータル最大手のヤフーも3月に参入しました。しかし、現時点では利用者数、話題性などの点からも、ミクシィが日本のSNS市場において圧倒的な存在感を持っていることは間違いないでしょう。
一方、世界に目を向けてみると、今年中の日本進出がうわさされている「マイスペース・ドット・コム」の登録利用者数は、ミクシィの約20倍の1億人です。その同社がメディア大手のニューズ・コーポレーションに買収された価格は700億円でした。こう考えると、今回のミクシィ株は、かなりの高いプレミアムがついていることは否めません。 現在の主力であるウェブ広告と求人事業に加え、新たに調達した資金を利用し、ネット通販などを組み合わせた新しい収益モデルを構築していかなければ、こうした高い株価を維持することは難しいかもしれません。
【ポイント2】
もてはやされるIPO投資ですが、ミクシィの影に隠れた形になり、医療機器卸の協和医科(3052)が取引開始と同時に公募・売り出し価格(500円)を1円下回る499円の初値をつけたことはあまり語られていません。ジャスダックや東証マザーズなど新興株式6市場で、初値が公開価格を下回ったのは昨年7月に上場したゴルフクラブ製造販売のマルマン(7834)以来、1年2カ月ぶりのことでした。IPO投資は何がきっかけで逆流し始めるか分かりません。世の中に絶対儲かるゲームなどない、ということを肝に銘じてほしいと思います。
【ポイント3】
アメリカに「テンバガー」という言葉があります。野球で満塁ホームランを「フォーバガー」と呼ぶことから、ウォール街では10倍上昇株のことをこう呼びます。この言葉を好んで使用していたのが、米フィデリティ投信のピーター・リンチ氏です。彼は、ファンドマネジャーを13年間務め、その間に約28倍の運用パフォーマンスをあげました。同じ期間にニューヨーク・ダウが約3倍し上昇していなかったことを考えると、この28倍という数字がいかにすごいか分かると思います。
そのリンチ氏がテンバガー発掘のヒントとして、「小型企業への投資は、その企業が利益を出しはじめるまで控えた方がよい」、「投資したいという株が見つからないなら、見つかるまで資金は銀行に預けておけ」などと述べています。これは、IPOだからといって飛びつく姿勢に釘を刺す言葉と捉えることができるでしょう。

ピーター・リンチと共に仕事をしたことがある日本人ファンドマネジャーとは、以前の会社で上司・部下の関係でした。私が学生時代からあこがれていたピーター・リンチの話を何度も聞くことができたのは、お金に換えがたい財産となっています。彼の手法は、『ピーター・リンチの株で勝つ』など、書籍にもなっています。ぜひ、ご覧いただければと思います。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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