リーマンの破たんは株高の予兆。金融不安の5段階
米証券4位リーマン・ブラザースが経営破たん
日本では3連休の最終日、敬老の日の9月15日、世界を揺るがすニュースが届きました。経営難に陥っていた米国4位の大手証券リーマン・ブラザースが、連邦破産法11条の適用を申請すると発表したのです。連邦破産法11条は日本の民事再生法に相当、つまりリーマンは経営破たんしたのです。【ポイント1】
これだけでも一大ニュースですが、同日には米大手銀行バンク・オブ・アメリカ(以下バンカメ)が、米大手証券メリルリンチを買収するとの発表もありました。これはバンカメによる、経営難のメリルリンチの事実上の救済合併といえます。
リーマンは住宅ローン資産の値下がりなどで、8月末までに126億ドル(約1兆3,000億円)のサブプライム関連損失を計上。株価も、先週1週間で77%も下落するなど、信用不安から非常に厳しい状況に追い込まれていました。
もちろん手をこまねいていたわけではありません。12日夜から米連邦準備理事会(FRB)や財務省を交え、バンカメや英銀バークレイズなどへの身売りの可能性を探って交渉が続けられました。しかし、14日午後にはそうした交渉が決裂、万事休すとなったのです。
こうした事態を受け、世界の株式市場は大きく下落しました。たとえばインドのムンバイ証券取引所の主要30社株価指数SENSEXは15日、前週末比3.4%安の1万3,531.27となりました。これは約2ヶ月ぶりの安値です。
また遅れて市場が開いた米国では、NYダウが前日比504ドル安(マイナス4.42%)と、米同時多発テロ発生時以来の下げ幅を記録しました。“当事者”であるリーマンの株価は、なんと同94.25%安。バンカメも同21.31%安など、金融を中心に、全面安の展開となりました。
休み明けの日本市場も例外ではなく、16日の日経平均は下げ幅500円強で、年初来安値を割り込んで寄り付きました。
金融不安の5つの段階
こうした状況を受け、米国の一部メディアはリーマンの破たんが不可避となった14日を「流血の日曜日」と報道するなど、世界中で緊急事態として危機感が高まっています。
しかし、本当に緊急事態なのでしょうか。「そうではない」というのが私の意見です。【ポイント2】
振り返ってみると、この一見、緊急事態である一連の流れを、私たち日本人はすでに経験しているのです。ほんの少し前まで、日本も金融不安の真っ只中でした。実際に大手金融機関が破たんし、景気の先行きは真っ暗でした。
しかし、そうした事象を観察すると、株価が反発したタイミングの多くが「大手金融機関の破たん後」であったことが分かります。その典型例は03年5月のりそなホールディングス(8308)の実質的破たんと公的資金投入の決定です。
それまで各金融機関は、不良債権処理による資本低下に対応するため、必死に増資を行ってきましたが、「更なる危機」への警戒感からか株価は下がり続けていました。しかし、りそなの実質破たんが「悪材料で尽くし」となり、株価は反発したのです。
こうした動きを踏まえ、金融不安の流れを整理すると以下のようになります。
・第1段階は「金融緩和」(=利下げ)
・第2段階は「不良債権額増大」
・第3段階は「資本増強」
・第4段階は「株価大幅下落」
・第5段階は「公的資金投入」または「大手金融機関破たん」
今回のサブプライムローン問題も、背景や商品設計に違いはあっても、ほとんど同じ流れです。日本と違うのは、そのスピードと規模でしょうか。
「大手金融機関破たん」は悲観すべきではない
このように考えると、すでに発表されている米住宅公社2社(ファニーメイ、フレディマック)への公的資金注入とともに、今回のリーマンの破たんは、今後の株高を示唆するものだといえます。
住宅公社2社への公的資金注入のスキームは、2社合計で2,000億ドルの優先株購入枠を設定し、経営状況に応じて段階的に公的資金を注入するというもの。米国のGDPは、不動産関連がその約6割を支えているといわれています。その不動産関連のうち、住宅公社2社が保有・保証する住宅ローン債権は約5兆ドルと巨大なものです。その2社を政府が保証するのですから、信用回復は時間の問題といえるでしょう。
リーマンという金融大手の破たんは上記の流れでの金融不安の最終局面であり、今後の株高を予感させます。
もちろん、すぐに株高になるというわけにはいかないでしょう。りそなの時も短期的には株価は乱高下を繰り返しました。しかし、公的資金投入決定前後の約1年間(03年3月末〜04年4月末)での株価騰落率の上位には、金融機関が軒並み名を連ねていました。私が当時所属していたUFJグループは、1年間で460%も上昇したのです。
もちろん、リーマンの事例が、りそなとまったく同じというわけではありません。規模、そして影響の範囲はリーマンのほうが圧倒的に大きく、そのせいで世界の株式市場に動揺が走っています。ですので、株価が下げ続けるリスクも否定できません。
しかし、そのリスクを認識しつつも、「株価上昇の可能性が高まっている」ことを踏まえ、勇気を持って一歩踏み出すタイミングなのではないかと私は考えています。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 米国で大手金融機関が破産法を申請するのは異例のことです。証券会社では90年にドレクセル・バーナム・ランベールが申請した例があるくらいです。 リーマンは六本木ヒルズに本社を構え、日本でもしっかりと存在感を発揮していた会社です。そんな会社が破たんしてしまうのです。今の金融業界のおかれた状況の厳しさを実感せざるを得ません
- 【ポイント2】
- 悪材料の続出、下がり続ける株価…。こうした状況で投資に踏み切るのはやは り難しいことでしょう。しかし、過去を振り返り、歴史を俯瞰(ふかん)する ことで、違った見方が可能になることもあります。特にバブル崩壊、不良債権 問題や金融破たんを目の当たりにしてきた日本人だからこそ、分かることもあ るのではないでしょうか。
- 【ポイント3】
- ペンシルベニア大学ウォートン校のジェレミー・シーゲル教授は、「リーマンやベア・スターンズは住宅ローン債権の巨額損失を乗り切るだけの財務体力がなかったという個別企業の問題と捉えられる」と指摘、「アメリカン・インターナショナルの社債格下げ、ワシントン・ミューチュアルの経営問題以外に、予想外の出来事はないと思う。株価は7月15日につけた安値を割り込まなければ、来年までに反発する可能性がある」とも語っています。
これだけ株価が下落すると萎縮してしまうものです。しかし、経験をベースに物事を見ると、違った景色がひらけてくるのではないかと考えています。 私もUFJグループに所属しているとき、破たんの可能性を感じていました。このように、私自身、実際に肌で感じた経験があるからこそ、今回のコラムのように、リーマンの破たんをチャンスと捉える意見になったのだと思います。(木下)
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2008年09月17日 15:16 | 匿名
木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。