円安はいつまで続く?株価を左右する為替の動きを読み解くポイント

円安に下支えされた株高

景気が回復傾向にある日本。本来なら国の力を表すはずの為替は円高に向かうところですが、実際には円安傾向が続いています。

ここ1年でみてみると、対ドルは昨年5月に109円台をつけるなど、多少の上下をしながらも、円安の傾向。対ユーロは円安一直線といった形です。対ポンドでも同様の動きとなっています。以下のリンクをご参照ください。

07年2月12日の海外市場では円が売られ、対ドルで一時122円台前半まで下落、12年前と比べると40円以上の円安です。対ユーロでも初の159円台をつけ、史上最安値を更新しています。95年4月19日に1ドル79円75銭をつけたことなど遠い昔、おぼろげにしか覚えてらっしゃらない方も多いのではないでしょうか。

こうした円安傾向をどう捉えるべきか?先にも述べたように、為替は国力を表す指標の1つです。円安が続くということは、日本という国の力が評価されずに、円が売られているという側面があります。

しかし、株価への影響を考えると、円安は輸出企業を中心に好影響を与えます。

06年の日本の国内総生産(GDP)に占める輸出の比率は15%に近づき、過去最高となる見通しです。個別の産業でみると、自動車は国内の生産台数に占める輸出比率が06年は52%に達し、19年ぶりに5割を超えました。トヨタ自動車(7203)は、海外生産を拡大しても需要に追い付かず、輸出比率は6割を超えています。

また、06年の鉄鋼輸出額は320億1,800万ドルと初めて300億ドルを突破。06年度上半期の輸出比率は、新日本製鉄(5401)で05年度通期と比べて、30.9%から32.3%に上がったなど、大手4社全てで上昇しました。

自動車セクターや鉄鋼セクターの好調な株価は、円安による輸出効果で業績が伸びていることが背景にあるといえます。

円安による輸出企業の好調さが日本全体の景気に寄与する、というのはこれまでもよくみられたパターンです。だからこそ日本政府は、諸外国、特にアメリカの自動車産業などから批判されながらもドル買い、つまり円を売って円安に誘導する市場介入を何度も行ってきました。

それでもなお、なかなか円安に振れないこともありました。しかし、現在は、04年3月以降市場介入がないにも関わらず円安傾向が続いています。その背景とは一体何なのでしょうか。【ポイント1】

「金利」と「将来性」〜円安の2つの要因

よく指摘される円安の要因は、日本と米欧の金利差です。「金利の安い日本の銀行に預けるより、外貨預金を」という個人の資産運用もその1つといえます。また、いわゆる「円キャリー取引」も円安の要因です。

円キャリー取引とは、簡単にいえば金利の安い日本でお金を借りて、それを金利の高い国の通貨に換えて運用するというもの。円をほかの通貨に換える時に円売りが発生するため円安の要因となります。

06年に日銀がゼロ金利解除を決定し、日本の金利が上昇するとの見通しから、一時、円キャリー取引は下火となりましたが、夏以降再び盛り上がりをみせています。【ポイント2】

少し為替から離れますが、日本の不動産市場でも同様のことがいえます。欧米では、借入金利である長期国債よりも、不動産から得られる収益(利回り)が下回って推移しています。つまり、不動産に割高感があるわけです。

一方で、日本は一時期に比べれば不動産から得られる利回りは低下しているとはいえ、まだ長期国債よりも高い水準にあります。つまり、外国人投資家からすれば、日本の不動産は割安なのです。

お金は金利が低いところから金利が高いところへ動きます。その差が儲けになるからです。日本はゼロ金利が解除されましたが、諸外国と比べればまだまだ低金利。金利差がある以上、なかなか円高には振れないという見方ができるわけです。

しかし、為替は金利差だけで動くわけではありません。為替市場は、1日100兆円もの巨額の資金がバーチャルで動いている膨大なマーケットであり、市場参加者も多様なのです。

株式投資で考えてみると分かりやすいかもしれません。配当利回りに着目する投資家もいれば、将来の利益が伸びるかどうかファンダメンタルズ分析を行う投資家もいます。為替市場にも同様に、金利差に着目する投資家もいれば、ファンダメンタルズ分析を重視する投資家もいるのです。

先の7カ国財務相・中央銀行総裁会議会合(G7)の声明で、「為替レートは経済ファンダメンタルズを反映すべき」と盛り込まれたにもかかわらず、円安是正には触れられていないのは、現在の円安傾向が、日本の経済ファンダメンタルズとかい離していないから、と捉えることもできます。

冒頭で「景気が回復傾向にある日本」と述べたことと矛盾しているようにも思えますが、より大きな視点でみると、円安が日本の経済ファンダメンタルズを反映しているという言い分が理解できます。

まずは景気回復の実態です。まだまだ個人消費に弱さがあり、「円安に支えられた輸出業への依存」から完全に抜け出しているとはいえません。

さらに長期的にみてみると、「少子化」も大きな課題です。少子化とはつまり人口減を意味します。人口は経済ファンダメンタルズの根本。その人口が減れば潜在成長率が低迷することが予想されます。そのため、日本の将来に対する不安が円安という形で反映されているといえるのです。

為替動向を見抜くためのポイント

今後の為替の方向性をどうみればよいのでしょうか。先にも述べたように、為替市場には多様な参加者がおり、全ての要因・思惑を織り込んで予測することは不可能といえます。しかし、その中でも最も大きな要因に基づき仮説を立てることは可能ですし、有益です。

その「最も大きな要因」はやはり金利です。日銀が利上げを実施すれば、日本と欧米の金利差は縮小することになり、円安要因の1つがなくなります。

しかし、仮に日銀が利上げに踏み切ったとしても、誘導目標の無担保コール翌日物金利は現行の0.25%から0.5%に上がるだけ。ユーロ圏13カ国の政策金利(3.5%)とは依然3%の差があります。これでは低利で調達した円をユーロ建ての資産で運用する円キャリー取引縮小のきっかけにはならないでしょう。

また、日銀が利上げを実施すれば、その後しばらくは円買いを促すイベントは見当たりません。円安に批判が集中するのではとの懸念のあったG7では、逆にイングランド銀行(英中銀)のキング総裁が、「日本に国内景気を弱める円高政策を求めるとは理解に苦しむ」と発言しました。

さらにドル円に関して忘れてはいけないのが中国の存在です。高成長を維持するためには、人民元の上昇を抑えなければならず、かつての日本と同様、中国人民銀行がドルを買い支え、ついに中国の外貨準備高は1兆ドルを突破しました。ドル買い需要が続くようであれば、結果として円安圧力が増すことになり、円安を助長することとなります。【ポイント3】

こうした状況を考えると、一気に円高に振れるという可能性はあまり高くない、というのが現時点での仮説です。為替は直接、間接に株価に影響を及ぼします。みなさんもきちんとした仮説を立て、為替の株価に与える影響を考えながら投資を行ってください。

相場が分かる!今日のポイント

【ポイント1】
諸外国をみると自国通貨を少しでも高い位置で維持したいとする姿勢が見て取れます。たとえば、アメリカ。04年には「雇用創出法」という時限立法を制定し、ドル高政策を採用していました。雇用創出法とは、アメリカ企業がアメリカ国外で稼いだ収益を国内に還流させるための法律。国外で稼いだ収益を一旦国内に戻すドル買いをすると税金を大幅に引き下げるというものでした。結果、中東で多額の収益を稼いでいたエクソン・モービルなどの原油関連収益がドル買い需要となり、ドル高(=円安)を演出したのです。
【ポイント2】
投資の基本は円キャリー取引に代表されるように「裁定取引」を見つけられるかどうか。アービトラージ戦略ともいいます。株式投資も将来価値と現在価値のアービトラージを見つけることで成功が近づきます。私は会社を調べて、現在予想されている将来価値以上に伸びる可能性があるかどうかを探すことでアービトラージを行っているといえます。
【ポイント3】
アメリカは「双子の赤字」と呼ばれる財政難に苦しんでいます。簡単にいってしまえば借金漬け。それでも経済が回っているのはドルが基軸通貨だからです。基軸通貨である以上、デフォルト(債務不履行)する心配はありません。しかし、もしドルが基軸通貨でなくなってしまったら…。そして、もし中国の人民元が基軸通貨の座をドルから奪ってしまったら…。アメリカはあっという間に普通の国になってしまいます。米国がドル高を維持しようとしている背景には、対中国を見据えているということも忘れてはいけません。

為替を予測することは本当に難しいです。そのため、私は為替予測を投資判断にはあまり組み入れないようにしています。というのも、GDPに占める輸出の割合が高まったとはいえ、まだ15%程度。60%を占める個人消費のほうが影響が大きいのであれば、まずは小売株など内需系企業に投資をすることのほうが安心できます。輸出企業に投資をするのであれば、内需系企業にも分散投資しておくことをお奨めします。(木下)

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

投資脳のつくり方

マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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