本当の株価上昇は北京五輪の“後”に来る?〜中国訪問特別記(2)

前回のコラムに続き、中国訪問記の後編をお送りします。前回の前編では、北京五輪前の北京の様子をお伝えしました。

今回は、中国の経済成長の中心の担っているといっても過言ではない上海です。上海は1978年の改革開放政策をきっかけに大きく成長し、今では中国最大の経済都市となりました。中国経済、そして中国株を追う上で注目せざるを得ない場所といえるでしょう。

ではさっそく、その上海の様子を、私が撮影した写真とともにお伝えします。

インフレの影響は中国にも波及?

まずは上海の高層ビル群と夜景です。

高層ビル群

華やかな夜景

高層ビル群と華やかな夜景

「中国最大の経済都市」の名に恥じない発展ぶりです。

現在、中国をはじめとした新興国を苦しめているのがインフレです。インフレ下では、モノの値段が上がる一方で、貨幣価値が下がります。資源国であれば、その資源の価格も上がる、というメリットもありますが、新興国は資源国であっても、同時に経済発展のために原油をはじめとする大量の資源を必要とする資源消費国でもあります。

また、モノの値段が上がれば、消費を冷やすことにもなります。ですので、インフレは経済を疲弊させ、株価を下げる要因となります。

では中国の現状はどうなのか?株価は確かに大きく下げています。年初からの株価を見ると、新興国の中ではベトナムに次ぐ大幅な下落率となっています。

しかし、私は必ずしもこの状況を悲観する必要はないと考えています。その関連で私が注目しているのが以下の記事です。

石油製品価格引き上げ、7月から電力料金も―中国(レコードチャイナ)

これまで中国政府は、高騰を続ける原油に対して財政補助を行ってきました。原油価格が高騰を続けても、実際に消費する消費者や工場は、補助のおかげで安価で資源を手に入れることができたのです。

しかし、政府もあまりの急激な原油の高騰を吸収しきれず、徐々にそのコストを消費者に転嫁しようとしているのです。

原油価格は近く下落する?

この問題について、私は上海で中国大手証券の申銀萬國証券のストラテジスト Geroge Ann 氏など様々な方と意見交換をしました。

申銀萬國証券

中国大手証券の申銀萬國証券

Geroge Ann 氏

著者(右から2番目)と取材に応じてくださったGeroge Ann 氏ほか

Ann 氏は、この中国政府の動きを「大きなものだ」と考えていらっしゃいました。そうした方々とのディスカッションを通じ、私は「中国の原油需要が後退し、原油価格が下落するのではないか」と考えるようになりました。

つまり、原油価格の上昇のコストの負担を迫られた製造業などは、これまでのように原油を湯水のようには使えなくなり、結果、原油需要が後退。需要が後退すれば、実需に基づく価格は下落する。そして、最大の原油需要国である中国での需要減をきっかけに、投機資金も逆ポジションに転じる可能性がある、と考えているのです。

原油だけでなく、食料品の値上がりも世界的な問題になっていますが、実は中国では、豚肉などの食品価格が下落に転じる例が出てきているのです。

下落に転じた豚肉の価格

下落に転じた豚肉の価格

これは、価格高騰に歯止めを掛けようと、政府が食料価格規制を採用したためです。

原油も同様に、“政府の誘導”により価格が下落する可能性がありうるのです。

北京五輪後の株価を左右する金融政策

とはいえ、これだけ騰勢を強めている原油価格ですから、「必ず下落する」と信じきれない方も多いでしょう。また、例え原油価格が下落し、インフレの危機が去ったとしても、それだけで中国株に関して心配はいらない、今後は上昇するだろうと考えるのは難しいかもしれません。

そうした意見にも頷くべき点はあります。ただ、私は原油価格以外にも中国株の上昇の可能性を見出しています。

中国政府は北京五輪のあと、これまでの金融引き締めの方針から金融緩和に移行していくのではないか、という点です。

かつては株価が高騰していたため、金融引き締めに動くインセンティブがありました。しかし、株価がこれだけ下落している現状で、更なる引き締めは難しいでしょう。

加えて、2010年には上海万博が開催されます。万博は五輪と並ぶ「先進国の仲間入り」をアピールする大切なイベント。それ以外にも、まだまだ新興国として開発の余地がある中国ですから、これ以上の金利の引き上げは、国家運営においてもマイナスインパクトをもたらすと考えられます。

一般的に金融緩和は株価の上昇につながります。そして私は、中国は金融緩和に動く可能性が高まっていると考えています。

いずれにしろ、世界の経済に大きく影響を与え、超大国になろうとしている中国の動向からは目が離せません。近いうちにまた中国を訪問し、継続してウォッチしていきたいと思います。

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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